「伊吹ってさ、かっこつけじゃん」


「おー、無視か」


「花ちゃんの前で先を読む気配りとか。レディファーストとかしちゃってさ?腹立つくらいスマートだったじゃん」


「そんなんだった、俺?」


「うん。すげー見栄っ張りだなと思ってたよ」


ひどい言われようだな俺。


モル濃度を計算しつつその話に半分くらい耳を傾ける。


「でもさぁ、伊吹って藍田さんの前だとからっきしダメじゃんね」


ぷはっと思い出し笑いしている山本にイラっとする。


「藍田さんにはものすっごい奥手じゃん。藍田さんのことが嫌いっていうけどそうじゃなくて、そういう自分が嫌なんだろ?耐えられないんだろ?」


え、精神分析?
山本こわ……。でも


「ちげーよ」


嫌なんだよ。本当にそれだけだ。


「かっこ悪いところ見られたくないのはわかるけどさぁ」


いや、わかんないっしょ。


「かっこ悪いっていう次元じゃねーんだよ」


「へ?」


「まじダサい。思い出すだけで死にたくなる思い出ばっか……」


それを藍田さんが共有しているのかと思うと、絶望的な気分になる。



お前にその気持ちがわかるか。わかんねーだろ。