彼が望む結婚生活はどんなものなのか。
 どんな奥さんを求めているのか。
 花霞にはまだわからない事も多かった。

 けれど、椋がとても真剣に結婚を望んでいるのだけはわかった。
 結婚したい気持ちも、強く伝わってきた。

 花霞はそれに全力で答えよう。
 そう思った。


 花霞がはにかみながらそう言うと、椋はにっこりと微笑み、そして花霞を抱きしめた。


 「りょ、椋さん!?」
 「もう立派な花嫁さんだよ。」
 「そ、そうかな………?」
 「うん!花霞ちゃん。楽しい結婚生活を過ごそうね。」


 椋はそう言いながら、花霞の左薬指に光る指輪にキスを落とした。

 今まで恋人とお揃いの物など持った事がなかった花霞は、特別なお揃いを手に入れた。

 恋人以上に特別な関係になった証。
 そして、机の上にはほとんど完成している婚姻届けもある。

 椋と同じデザインのその指輪が、自分の指で椋と夫婦になったのだと教えている。
 

 期間限定の結婚生活。
 それは、恋人との生活と何が違うのか。
 今の花霞にはわからなかった。

 けれど、きっと何か違う事が起こる。
 その予感を感じていた。






 次の休みの日。

 栞にサインをして貰い完成した婚姻届けを持って、椋と花霞は役所へ提出しに行った。


 「おめでとうございます。お幸せに。」


 そんな言葉を掛けられた2人は、顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。




 この日から、花霞は正式に『鑑花霞』になった。