時刻は十九時。

有坂社長があらかじめレストランの予約を入れておいてくれたようで、スタッフに通された席で三十分待った。思いのほか早く着き過ぎてしまったのだ。しかし、そんな待っている時間でさえも年甲斐にもなく胸が躍り、苦にならなかった。

まったく、落ち着け俺。がっついてるなんて思われたら恰好悪いぞ。

そう自分を戒めていると、どこからともなくふわっと女性らしいフローラルな香りがして、見ると彼女が微笑んで立っていた。

「すみません。お待たせしました。初めまして、有坂優香です」

ああ、やっぱり……近くで見れば見るほど綺麗な人だ。

イルブールで初めて彼女を見かけた時も綺麗な人だと思った。今夜は眼鏡もかけていないし髪型も下ろしていて、いつもと雰囲気が違う。

彼女が椅子に座ると小さく微笑む。この向けられた笑顔が、紛れもなく俺へだと思うと心底嬉しかった。

「今日は突然父が来られなくなってしまって……すみません」

「いや、いいんだ。社長もお忙しい人だし、君と水入らずで話せるならそれで」

思わず本音が出てしまうと、彼女がクスッと笑った。