そう思わず声に出してしまうほど、俺はその写真を瞬きも忘れて見入った。しばらくマウスに手を載せたまま固まってしまう。

嘘だろ……だって、彼女は……。

セミロングの黒髪にぱっちりとした二重、柔らかそうなピンクの唇に肌は透き通るように白い。

一瞬、なにかの間違いかと思ったが、送られてきたメールは紛れもなく有坂社長からで、写真に写っている女性は、イルブールでピアノ演奏をしている彼女だった。屈託もない笑顔がまるで俺に向けられているようで、馬鹿みたいに恥ずかしくなる。

これって夢じゃないよな……?

ああ、今、ひとりでよかった。多分、いや絶対間抜け面してる俺。

【有坂優香 二十三歳。アルコン広告社の総務課勤務をしている。都合は水城君に合わせよう、連絡を待っている】

メール文にはあっさりとした彼女のプロフィールが書かれていた。

優香……優香っていうのか……。

せめて名前だけでも知りたいと思っていた。まさか、彼女が有坂社長の娘だったなんて思いも寄らない事態に柄にもなく動揺した。もしかしたら、この先の人生の運をすべて使い切ってしまったかもしれないが、俺はそれでもよかった。

きっとこれは……運命だ。

俺は早速、メールで【明日にでも予定を組みましょう】と有坂社長に連絡を入れ、彼女に会える。という原動力で、山積みの仕事を猛スピードで片付けていった――。