「いや、大丈夫だ。君も定時であがっていい。子どもの迎えもあるだろう?」

時刻は十七時。

秘書として派遣で雇っている石田はよく気が利いて、結婚前は大企業社長の専属秘書をしていた経歴があるためか仕事ぶりも優秀だ。社長である俺に時に厳しく意見することもあるが、すべて的を得ていて、俺はそんな彼女の裏表のないはっきりとした人柄を買っている。

「ここだけの話、アルコン広告社の令嬢と見合いすることになりそうだ。君はどう思う?」

「え? お見合いですか?」

石田は気の置けない信頼できる秘書だ。だから、こんなプライベートなこともすんなり聞けてしまう。すると、彼女は騒ぎたてもせず冷静に言った。

「そうですね、社長が気に入る女性ならきっと素敵な方だと思いますよ。それに、どんな相手であろうと、自分の気持ちが一番大切かと……。それでは失礼します」

どんな相手であろうと、自分の気持ちが一番大切……か。

石田に言われた言葉を反芻すると、ふとイルブールの彼女のことを思い浮かべた。

彼女は今頃なにをしているだろうか……?

石田が社長室を後にして、ひとりまたため息をつく。

ん? メール……?

パソコン画面に目をやると一通のメールが入っていることに気づく。

さっそく有坂社長が言っていた“娘の写真”を送ってきたのかと、イルブールの彼女のことを考えた後ではあまり気乗りしなかったが、受信箱にある添付画像を開いた。

「え……?」