「水城さん、愛美のこと知ってたんですね、すっごい偶然! びっくりしちゃいました」

彼女はあっけらかんと笑っている。自分の馬鹿さ加減につられて俺も苦笑いを浮かべるしかなかった。

「ひょっとして水城さん、愛美のほうが気になってる……って感じですか? ふふ、顔を見ればわかりますよ」

「えっ!?」

おいおい、いきなり直球だな……。俺が一体どんな顔をしていたというんだ?

「やっぱり! 私を愛美だと思って話してる水城さん、すごく嬉しそうだったし」

俺の心を見透かすように彼女がニッとして顔を覗き込んでくる。その目に“図星でしょ?”と言われてるようで、俺は潔く観念することにした。

「ああ、そうだよ、君の言う通りだ。俺はお姉さんのほうに……気がある。けど、一度も話したことはない」

複雑な気持ちだった。動揺しているなんてみっともなくて俺はワイングラスをぐっと呷った。

「それって、水城さんの片想いってやつですか? こんな素敵な人から密かに想われてるなんて……愛美ってばもう! 羨ましい限りです」

まるで色恋沙汰に花を咲かせてキャッキャしてるうちの会社のOLたちと話している気分だ。

そういえば、イルブールのオーナーが『色恋に興味がない』と言っていた。相手にその気がなければ、俺がいくら想っても彼女の言う通り、完全な俺の片想いってやつだ。