「……ん……」

木村恒音（きむらひさね）は、ゆっくりと目を開ける。窓の外から優しい光が差し込んでいた。

ベッドのそばに置いてある時計を見る。朝の八時。今日は仕事ではないため、ゆっくりと眠れる。恒音は大きなあくびをした。

「おはよう、カエデ」

恒音は、飼っているニューファンドランドのカエデの頭を撫でる。漁師や船乗りたちからよき相棒として認められたカナダ原産の大型犬だ。

「散歩行こっか」

恒音はパジャマからブラウンのゆるニットと黒いタイトスカートに着替え、家の外へと出た。外の空気はひんやりしている。

恒音は日本人だが、日本から遠く離れたカナダで生活している。留学した際に気に入り、住むことにしたのだ。

あの有名な文学作品、「赤毛のアン」の主舞台となったプリンス・エドワード島に住んでいる。

世界一美しい島の一つとも言われるほど、島は素朴な美しさであふれている。その景色は季節によって姿を変え、まるで物語のようだ。