“その子はもう飛べないのよ。ほら、片翅しかないでしょう?”


 小学生の頃だっただろうか。


 片翅の蝶を見つけて、どうしてこの子は動かないのと姉に聞いたことがある。


 少し困ったような顔をして、一所懸命に答えてくれた。あまり納得はしていなかったけど、そういうものなんだと思い込んだ。これ以上姉を困らせるのも悪い気がして。


 子どもながらに思ったことがある。



 ああ、この子はエデンから見放されたのだと。片翅だけじゃ飛ぶことはできないーー永遠に飛べない蝶。



「かわいそうだね」

「そうね」




 そんなやり取りを交わしたのをよく覚えている。