「なんで何も言わなかったんです? 過去から何も学ばなかったんですか? 皇王子の思いだって……そのブレスレットの意味だって分かってるでしょう?」
金色の光が完全に失われ、呪陣の中にいた少女の姿が消えた頃、責めたてるような声が、花野井の耳に届いた。
「……言ってどうすんだよ。帰るのに」
ふっと笑いを漏らしながら、不機嫌な月鵬を見返す。
その笑みはどこか自嘲じみていたが、どこかしら嬉しさのような感情も含まれていた。そんな花野井を、月鵬は片眉を吊り上げて見据えた。
「だからでしょ」
「俺が告白なんかしたら、嬢ちゃんの記憶に残っちゃうだろ」
「残せば良いじゃないですか!」
ムキになって言い返す月鵬に、花野井は自嘲を返した。
「酷な事言うな。お前も」
花野井の意図している事は、月鵬にも分かっていた。
やはり、家族の待っている家へ帰すのが良いということ。
鈴音に襲われてからというもの、ゆりが時折脅えた様子を見せる事も知っていた。
この世界よりは安全だというゆりの世界へ帰した方が、ゆりのためになるだろうという事、何よりゆり自身が、帰りたいと願っていた。
だからこそ、花野井はゆりを帰す事を決めたのだ。
だが、月鵬には、口惜しいものがあった。
過去、妹の柚に告げられなかった想い。
告げていれば、何かが変わったかも知れない。
二人は両思いで、それを知らずにいたのだから。
それを、妹の残した手紙で、確認したのではなかったのか。
何故、賭けてみようとは思わなかったのか――と、月鵬の中で、悔しい思いがあった。
それは、自身の後悔の念でもあった。
「分かりますよ。想いを伝えて、二度と会えないのに、その記憶を相手に抱かせていて良いのかってことですよね? でも、嬉しいかもしれないじゃないですか。一生良い思い出であるかも知れないじゃないですか。もしかしたら、ゆりちゃんもカシラの事、好きかも知れないじゃないですか。なんで、どうして、諦めちゃったんですかっ!」
絶対好きであったはずなのに――。
月鵬には、そんな確信がどこかにあった。
本人に確認したわけじゃないけれど、顔に出やすいゆりだ。
月鵬は、なんとなくそんな気がしていた。
また、自分は同じ過ちを繰り返してしまったのか――月鵬が、後悔の念を、花野井にぶつけた時だった。
「好きだからに決まってんじゃないの」