「ヤバイ!降って来たー。」

とうとう雨が降りだしてきた頃、傘を持っていなかったりんは、仕方なく、もう閉館してしまった図書館の建物の屋根の下で、雨宿りをする事にした。

「クスクス天音に教えてあげなよ。」

りんも気づかぬうちに、突然その声は、りんの右の足元から聞こえてきた。

(この子まったく気配せえへんかった。)

そう、そこに突然現れたのは、かずさに気をつけるように言われた少女みるかだった。

「じょうちゃん、こないだの子やな。」
「わかったんでしょ?」

突然、なんの前ぶれもなく話し始めたみるかの、憎しみに満ちたその目は、まったく笑ってはいない。

「…そういや、この前おかしな事言ってたな。」
「おかしな事って?」
「かずさは、悪魔とちゃう…。かずさは、いつも…どこか、悲しそうな目してる。」
「何言ってんの?アイツは悪魔と同類。」

りんは気がついていた。どこか冷たいかずさの目の奥に揺れる、その悲しみの色を。
しかし、りんの言葉は、まるでみるかには受け入れられない。
どうしてみるかが、かずさをそこまで邪険にしているのか、りんにはまったく理解できなかった。

「何でそうひねくれてんねん…。」

さすがのりんも、ここまで気持ちの通じない相手と話すのは、気骨が折れそうな思いだ。

「だって、アイツは全てを知ってるのに知らないふりしてるの…。知ってる?アイツの使教徒としての能力は…。」

ピカー、ドーン!
その時、大きな雷の音が響き渡り、みるかの声と重なった。

「え…。」

しかし、雷にかき消されたはずのみるかの言葉は、惜しくも、りんの耳には届いてしまっていた。

「天音に聞いといた方がいいわよ。どうやって村に帰るつもりか。」


ザ―――

雨は止むどころか、いっそう強くなるばかり。
しかし、りんの頭の中には、雨の音よりも、先程のみるかの声が何度もこだましていた。