「もう、帰った方がいいわ。もうじき雨が降る。」

かずさのその言葉に天音が空を見上げると、黒い雲が立ち込めていて、今にも雨が降り出しそうだった。
残念ながら、今日は夕日が見れそうにはない…。

「オイ!待て!」

話の腰を折られた月斗は、納得のいかない顔で、二人の間に割って入る。
こんな中途半端な状態で話を終わらせるわけにはいかない、と言わんばかりに。

「アイツに!青には二度と会うな!!」
「え…。」

そして月斗は、背を向けた天音に向かって、叫んだ。
もちろんそれは、天音にとって予期せぬ言葉。

「もう、行きなさい天音。」

しかし、かずさは、月斗にもうそれ以上喋らせまいと、天音を帰そうとする。
なぜ、かずさがそうするのか?それは月斗にもわからないが、かずさが邪魔しようとしているのは、明らかだ。

「お前、俺の言う事なんでも聞くって言っただろ。」

そんな、かずさの思惑通りにはいかせまいと、月斗は尚も続ける。

「月斗…?」

ゴロゴロ
空には黒い雲が立ち込めて、雷が嫌な音を鳴らし始めていた。

「月斗、どうして、青に会っちゃいけないの?」

天音の方からは、月斗のその表情は下を向いているせいで見えないが、その切羽詰まった苦しそうな声が気になって仕方ない。

「あいつを不幸にしたくないならもう会うな。」
「え…。」

リーンゴーン

その時、夕刻の合図の鐘がなった。この鐘の音は、ちょうど夕食時刻の30分前に鳴る鐘だ。

「タイムリミットね。」

かずさが静かにつぶやいた。

「月斗、ごめん行かなくちゃ!」

最後の月斗の言葉の意味を理解する前に、天音は後ろ髪引かれる思いで、城へと戻るしかなかった。

ポツリポツリと空から落ちてきた 雨粒が、徐々に地面を濡らしていった。