「まだわからない?」

そこに聞こえてきたのは、月斗の嫌いな、いつでも淡々と話しを進める、どこか冷たい彼女のその声だった。

「かずさ?」
「お前…。」

その声の方へと天音は振り返り、彼女の名を声にした。
まんまと邪魔された月斗は、その嫌いな声の主を、思いっきり睨みつけた。

「まったく。せっかく天音を呼んできてあげたのに。こんな話とはね。青はそんな事、望んでないわよ。」

そして、かずさは、やはり淡々と、その言葉を彼に投げかけた。
どうやら、天音の部屋にメモを置いたのは、かずさのようだ。
月斗も、もちろんかずさに頼む事はしたくないが、今はそんな事を言っている場合ではない。
しかし、かずさは月斗の頼みを簡単に快諾したと思ったら、今度は、まるで忠告するかのような言葉を用いて、彼の前に再び現れた。
そして、天音には、もう一つ別の疑問が頭に浮かんできた。

「かずさも、青を知ってるの?」
「ええ。」

その疑問を口にするのは、天音にとっては当たり前。
そして、かずさはその問いに、いとも簡単に答えてくれた。

「お前、城のもんなんだろ。」

かずさが城に関わる者だという事は、疑いようもない事実。
なぜなら、彼女の帰る場所はいつだって、城であり、さらに城にいる青の事も知っている。
しかし、彼女の狙いは、今もわからずじまい。

「天音…この世には、知らなくてもいい事がたくさんあるわ。」
「え?」

かずさは、そんな月斗は無視するかのように、天音の方へと視線を移した。
そして、そんな彼女のその表情は、いつもより強張って見えた。