「でも、あれだね。獣能力って、かっこよさそうだよね」
 慌てたゆりを見て、結はくすっと笑った。
「獣能力って、結構バカにされるんだぞ」
「え?」

「獣能力者は身体能力が高いから、海賊とか盗賊とか山賊とかには重宝されるけど、頭は弱いんだ。だからバカにするやつらも結構いるぞ。ゼアもバカっぽかったろ? 血が濃いものとの子供で、たまにそういうのが出来るんだ」
「えっと……」
 なんと言ったら良いのか分からずに間誤付くと、結はあっけらかんと笑った。

「つまりは、出来損ないだ」
「そんな事ないよ!」

 自分を見下げる結が哀しくて、ゆりはつい声高になった。
 結は少し驚いたようにゆりを見て、嬉しそうにはにかんだ。

「やっぱり、同じなんだ……」
「え?」

 呟かれた声に反射的に聞き返したゆりに、結は「何でもない」と、小さく首を横に振って返した。

「良いんだ。三条ではよくあることだ。風間さまだって、そうだぞ」
「え?」
「獣能力じゃないけどな」

 明るく言って、結は体重を預けていたソファから体を離した。

「風間さまは、すっごく厳しくて、部下は大抵みんなあの人のこと嫌いだ。ワタシもな」
「そうなの?」
 あっけらかんとした物言いに、ゆりはつい驚きと共に苦笑を返した。

「そうだぞ。仕事に関して凄く厳しいし、容赦ないし、冷たいぞ。それに、結構ピリピリしてて近寄りがたいんだ」
「あんなに物腰柔らかいのに?」
 到底信じられず、目を丸くして結を見ると、結はスパッと言い切った。

「それは仕事モードじゃないし、身内じゃないからだろ。あの人、外面は良いんだ」
「ああ、そうなんだ」

 思い当たるふしがあって、ゆりは苦笑した。怖いと感じた風間は、仕事モードであり、身内に対してだったからなのかも知れない。

 だが、それはつまり『お客様扱い』の他の三条家の者達と変わらないということだ。そう思うと、ゆりは複雑な思いがした。

「でも――」
 結は途端に真顔になって、ゆりを見据えた。