「廉抹さんだ」
「え!? そうなの?」
「ああ。実は実力主義の三条の中で珍しく順位が違ってるんだ」
「どういうこと?」

「実力的に言ったら、主が一番。次が廉抹さん。で、風間さま。なんだけど、廉抹さんと風間様はポジション的に逆になってるんだな。執事補佐の立場だけど、あんま行政に関わったりとかしてないし。風間さまやワタシたちみたいな任務を負ってるわけでもないしな」
「へえ。なんで?」

 ゆりには難しい話で良く分からなかったが、とりあえず尋ねてみると、結は「さあ?」と口を尖らせながら首をかしげた。そして、話題を変える。

「ただ、主は歴代の中でも抜群に才能があるって言われてて、廉抹さんと比べても飛びぬけた才能があるって言われてるんだぞ」
「すごいね」

「だろ? 主はすごいんだ! それに、それだけじゃないんだぞ。呪術師は、紙に術式を書いて、それにあらかじめ力を込めておくんだ。そうすると、それが呪符になる。それを使うんだ。普通は自分で作った呪符は自分だけしか使えないんだけど、主のそれは、他の人でも自由に使う事が出来るんだぞ」
「どうして?」

「力が強いからだと思う。詳しい事はワタシには分からないんだけど、昔風間さまに聞いた話だと、結界師は呪術師に比べて能力を引き出すパワーが足りないんだって。そして、他の能力者には、呪符に込める繊細さがない。もちろん呪符を作る技術もないし。そのパワーや技術、繊細さを補って、使えるようにしてくれてるみたいだ。ただ、能力者じゃない者には、どうしたって使えないけどな」

「へえ……結もその結界師なの?」

 何気なく尋ねると、結の顔が途端に曇った。
 何か悪い事を訊いてしまったのかと、ゆりが不安になると、結は微苦笑を返して、くるりと向きを変えた。ソファの前まで歩くと、ソファの背もたれに手をかけて振り返った。

「違う。ワタシは、獣能力(ベスティエ)だ」
「獣能力って……確か、ゼアと同じ?」
「そうだ」

 結の瞳が哀しげに光った気がして、ゆりは一瞬ドキッと心音が跳ねた。
 それを隠すように何か言い繕うとして、ゆりは声の調子を上げる。