「三条家の頭首は血筋でなるわけじゃないんだ」
「え?」

 ぽつりと零されるように呟かれた言葉を、ゆりは拾いきれずに聞き返した。
 すると、結は振り返ってにこりと笑んだ。

「三条家頭首は三条で一番強い者がなるんだ」
「え? そうなの?」
「そうだ。だから血縁者扱いだけど、オヤジ様と主は本当の親子ではないんだぞ」
「――え!?」
 口をあんぐりとさせたゆりに、結は悪戯っ子のような笑みを向ける。

「そんな顔をしなくてイイ。頭首に選ばれるのは凄い事なんだぞ」
「そうなの? でも、本当のご両親とかは、複雑じゃないの?」
 慮って言ったつもりだったが、結の顔は曇った。
「……主にもワタシにも、親はいない」
「そうなんだ……ごめんね」

 ゆりは申し訳なく思って頭を下げたが、結は明るく言って話題を変えた。
「いや。良いんだ。それよりも、主は、凄いんだぞ!」
「何が?」

「頭首を決めるときのことだ。普通は十二年に一度、実力者同士が戦ったり、能力を見せ合ったりして、暫定で次期頭首が決まるんだ。あくまで、暫定だぞ」
 勢い良く言って、結は人差し指をゆりに向けた。

「頭首が引退するときにもう一度集まって戦って、それで本格的に決定するんだ。でも、主の場合は違ったんだ」
「どんな風に?」
「暫定じゃなくて、即決まったんだぞ!」
「へえ……すごいね」

 本当にすごいかどうかは分からなかったが、何となくそうなのだろうと思ってゆりは相槌を打った。結は誇らしげに笑む。

「この大会に参加した時、主は六歳だったんだ。実力者ぞろいだったんだけど、主はそこで圧倒的な才能を見せ付けたんだぞ!」
「へえ……圧倒的な才能って?」
 今度は心から感心し、興味を持って訊いたゆりに、結はえへんと胸を張った。

「主は三条家でも珍しい、呪術が使える『呪術師』だったんだ」
「呪術師?」
「三条家に生まれる者には、空間操作、空間把握に長けた『結界師』と、術式に長けた『呪術師』がいるんだ。でも、その殆どが結界師で、呪術師はほんの一握りなんだぞ。今は二人しかいないんだ」

「へえ。それはすごいね。私も知ってる人だったりする?」