* * *

 結に連れてこられた部屋は、三階の大きな窓がある部屋で、薄緑のカーテンが敷かれていた。窓の前に三人掛けのソファが置いてある。

 四隅にランプが煌々と燈っているだけで、他には物は何もなく、広々とした空間が広がっていた。

「どうしたの?」
 ゆりは辺りを見回してから結に声をかけた。
 結は振り返ると、いきなり言い放った。

「違うよな?」
「え?」
「ゆんちゃんと、主は、こ、恋人じゃないよな?」

 ゆりは目をぱちくりとさせてしまった。正直またか――とも思ったが、結の様子が必死に見えて、ふと腑に落ちた。

「うん。違うよ。ただの友達。それは結だって知ってるでしょ?」
「そ、そうだよな」
 結はほっとした様子で胸に手を当てた。

(ああ、やっぱりそうなんだ――)
 ゆりは釈然としたが、胸の内で渦巻くような、切迫したような思いに駆られた。ゆりは静かに小さく首を振る。

「……好きなの?」
「え!? いや、ち、違う!」
「またまたぁ。好きなんでしょ?」
 耳まで真っ赤にした結に、ゆりはからかうような声を上げた。

「そ……そんなことは、ない。だって、好きになっちゃいけないんだ」
「どうして?」
「……主は、主だからだ」
「身分ってこと?」
「そうだ」
 ふ~ん、とゆりは口を尖らせた。

 この世界の者達は元々上下関係に厳しい印象があったが、どうやら三条家はそのことにおいては相当厳格らしい。

「どうしてそんなに身分に厳しいの?」
「三条はそこまで身分に厳しいわけじゃないぞ」
 結はあっけらかんと言い放った。
「そうなの?」
 驚いて目を丸くしたゆりに、結は大きく頷いた。
「うん。ただ、主――頭首だけは特別なんだ」

 特別――ゆりは心の中で繰り返して、結を見据えた。
 結はどことなく言い難くそうに、薄緑のカーテンを見た。その瞳は、カーテンを捉えたというよりは、その向こうの、はるか遠くを見ているようだった。