その時はまだ、西原くんは気になる人だった。私がどこにいても、何をしていても、いつも無意識にあなたを探してしまった。その度にあの体育祭の時のあなたの笑顔を思い出しては「今日も頑張ろう」って思っていたんだよ。その時の気持ちや目に映っていた景色は、今でもはっきりと私の心の中に刻まれているの。
 だから、東京に来てはじめて大学から帰るとき、小田急から見えたセピア色の町の景色を見ながら思い出していたの。西原くんの事を探しながら生きていた高校生のあの時、こんな風に電車の中から窓の外の景色を見ていたな、って。「明日も西原くんに会えるかな」「西原くんはどんな人なんだろうな」「西原くんは今勉強してるかな」って電車のドアにもたれながら外の景色を見ていたこと。あの時は次の日学校にいけばあなたに会えるのに、もうこんな思いで帰りの電車に乗っても あなたには会えないんだな、と思うと苦しかった。
 小田急から見えた夕暮れの世界があんまりにも似てるから、あなたも同じようにこの空を見ていたらって思えたの。そうしたら、「やっぱり頑張ろう」って思えたんだ。

 東京は街がきらびやかで、星も見えなかった。でも街の輝きを見ながら私も迷わずに生きなくちゃって思ったの。