改めてそう気づくと少し悲しい。ずっとこの幸せが続けばいいと思った。
 ずっと憧れてるだけでいい。
 遠くからこんな風に見られるだけでいい。
 廊下ですれ違えたらいい。
 体育の時に背中を見つめるだけでいい。
 この幸せな気持ちをずっと感じられるなら、あなたを見つける度に頑張ろうと思えるなら、今のままでいいと思った。

 先生が笛を鳴らした。時計を見ると授業が終わる5分前だった。笛の音を合図に、先生の元へと人の群れが動き出す。あーちゃんとさっちゃんも立ち上がった。私も行こうと立ち上がって、一目散に先生の方へと走っていく。そして、もう出来上がり始めている列の一部に私もなろうとした。私は自分の場所を探す。いつも通り自分のクラスの中を見渡す。いつも通り、いつも通りー…。

 そう唱えるのに、私は一発で見つけてしまった。西原くんを見つけてしまった。いつも通りクラスの中から私の居場所を探そうとしたのに、私はあなたを見つけて自分の場所に付いてしまう。今までの日常がこうやって変わっていく。
 私は西原くんの背中に重なるようにして後ろについた。先生が笛をならす。一斉に皆の両手が真っ直ぐに上がり、前ならえをして列を整え始める。
 私の指先がもう少しであなたの背中に触れそうになる。手を伸ばせば届く距離に西原くんはいる。でも西原くんは私の事を知らない。そう思うと苦しかった。だから、彼の背中に私の指が触れないように緊張しながら腕を伸ばした。
 
 そんな思いを乗せて学校のチャイムが鳴り響いた。