見つけたと同時に少しだけ後悔がやってくる。一度見つけてしまうとずっと目が離せなくなるからだ。気づかれてしまうことへの恐怖と、嬉しさと切なさが混じった複雑な感情とが私の中に混沌とした様子で立っている。見つけた瞬間、私の意識そのものが持っていかれてしまうこの感覚が少し怖かった。

「うん、いる」
 私はそれだけを伝えて、体育座りをした膝の上に顔を突っ伏した。私の頭の上で、さっちゃんが「え?どの人?」と知りたそうに答えた。それに、「奥から3番目に走る人だよ」とあーちゃんの答えが交差する。

「あぁ、西原くんね!」
 さっちゃんが納得して答えた。それに対してあーちゃんが「しー!声が大きいよ」とさっちゃんをたしなめる。それに小さく「ごめん、ごめん」と返すさっちゃん。

ー西原くんって言うんだ。
 ずっと知りたかった名前だった。初めて知ったあなたの名前が私の中に大きなスペースを空けて刻まれていった。

「…西原くんって言うんだ、知らなかった」
「愛ちゃん知らなかった?ほら1年生の時、体育私たちのクラスと同じだったじゃん。」
「え??」
 予想外の言葉に動揺しながら私は2年前の体育の時間を思い返した。6組は特別進学クラスで学年でもトップクラスの学力だった。今思い返してみると、確かに一年生の頃も特進と体育が同じだ。
 それに思わず「あー!」と声が出てしまう。
「思い出した!さっちゃん、西原くんと知り合いなの?」
「本当に覚えてないの?体育の時、うちのクラスで西原くんイケメンって噂になってたじゃん!」
「え~…そんなの知らなかったよ~」
 やっぱりカッコいいんだなぁ…。そう思うと少しだけ心の中がざわっとした。不安になる。確かにそうだよな、と思った。あんなに素敵に笑うんだから、私なんかじゃ到底届かない違う世界の人のように感じる。