「このカバン、可愛くない?」
舞香が目をつけたのは、さすがおしゃれな感じのブランドもののカバンだった。
手に取ったり眺めたり、たとえ買わなくてもこうやって友達同士でわいわいとするのは楽しい。
彩音とでは、とてもじゃないけどできなかった。
その彩音も、満更じゃないって感じで肩から掛けたりしている。
「いいこと思いついた。これ、私が買うから、みんなでシェアしない?」
「みんなでシェア?」
「そう、1日ずつ交代で使うの。ねぇ、そうしようよ」
舞香は完全に買う気でいるけど__。
「でも、私たちお金を払わないし、それはちょっとどうかな?ねぇ」と、私は彩音に振った。
「うん、それは悪い気がするし」
パンケーキでさえ渋々だった彩音が、舞香の提案に賛成するはずがない。
私だって、いくら舞香がお金持ちでも、そんなことで上下関係ができてしまうのは嫌だった。
少しショックを受けたような舞香に、私たちとの間で微妙な空気が流れる__。
そのとき、私のスマホが鳴った。
正直、助かったと思いながら確認すると、メッセが届いていたんだ。
「あっ、ごめん。私、行かなきゃ」
「お母さん、また悪いの?」
「うん、最近ちょっとね。ごめんね」
2人に別れを告げて、私は駅まで早足で向かう。
その足取りは、とても軽やかだった。