鬼課長の魔法の義足。(11/24修正完結済み)


「ハァッ……疲れた。
帰ったらゆっくりお風呂に入ってビールでも飲みたい」

「フフッ……そうですね。
じゃあお風呂に入っている間に
ビールとおつまみを何か作りますね」

クスクスと笑いながら車から降りるとマンションの
中に入って行く。すると座り込んでいる人影が見えた。
近くまで行くとその人物に驚いた。
あ、あれ?あの人は……!?

あのぶつかった美形の外国人男性ではないか。
何で、課長のマンションに居るのだろうか?
課長も私と同じように驚いていた。

「ロン……!?」

えっ……ロン?
そうするとその外国人男性は、私達に気づくと
立ち上がった。そして
サングラスを外すと課長に声をかけてきた。

「やぁ、日向……久しぶり。
あまり遅いから待ちくたびれたよ」

「何しに来やがったんだ!?」

「何って……心外だな。せっかくライバルの復帰を聞いて
お祝いがてら視察に来たって言うのに」

ラ、ライバル?えぇっ!?
課長のライバルって、どういうこと?
あの外国人男性って何者なの?
私は、頭の中が混乱してパニックになってしまった。
分かるのは、知り合いらしい……。

「視察だと……!?」

それを聞いて課長は、眉を寄せた。
何だか険悪ムードになって行く。
もしかして2人共、仲が悪いの!?

喧嘩になるなら止めないといけないけど
オロオロしなから見ていると外国人男性は、
私の方を見てニコッと笑ってきた。

「おや、レディ。また会ったね」

「えっ……と……あの……」


どうやって返事したらいいか分からずに
戸惑っていると課長が私の前に立ち
見えないようにしてくれた。課長……?

「結衣に手を出そうとするな。
彼女は、俺の恋人だ」

課長は、そう言ってくれた。嬉しい……。
だが外国人男性は、可笑しそうに
クスクスと笑ってきた。
何でそんなに可笑しいのかしら?
それに何か余裕を感じられる。

「あぁ、見ていてそうではないかなぁと思ったよ。
随分と可愛らしい子を見つけたじゃないか」

「用がないなら帰れ」

課長は、冷たく言うと私を引き寄せて
強引に行くと鍵を取り出して開けた。
だがガシッと課長の肩を掴む外国人男性。

「離せ」

「そんな冷たいことを言うなよ……日向。
俺……ホテルをとってない。
いつもの通りに泊めてくれ」

睨み付ける課長と違い、にこやかで言ってきた。
えっ?いつもの通り……?
すると課長は、さらに睨み付けた。

「お前な……いい加減に連絡なしに
突然、訪問してくるなよ!?
その上に一度あがらすと何泊して行くか
分からないくせに」

「えーいいじゃん。俺達ライバルだけど
親友だろ……?」

キレる課長とは対照的にあっけらかんとしている
外国人男性だった。えぇっ!?
ライバルと言っていたし、さっきまでの態度だと
仲が悪いと思っていたけど2人は、親友同士なの!?

「俺は、親友だと思ったことはない。
どう見ても悪友だろーが!?」

「え~せめて戦友にしてよ。
俺は、親友だと思っているけど」

アハハッと笑う外国人男性を見て
あれ?見た目は、女性の扱いにスマートな
大人の男性だと思っていたけど
中身は、意外と明るい……。


その外国人男性は、課長を怖がる様子もないし
課長は、課長で怒ってはいるが
気を許しているように感じた。嫌ってはいない。

「あ、あの……亮平さん。どちら様で?」
 
誰なのか分からずに私は、戸惑ってしまう。
これだと止めるどころか、自己紹介も出来ない。
何より私1人だけ置いてきぼりだ。

「あぁ、そうか。コイツは……」

「改めてはじめまして。レディ。
俺は、日向の永遠のライバルで親友の
ロバート・ウィルソンだ。
皆からは、ロンという愛称で呼ばれている。
君も遠慮なくロンと呼んでくれ。
よろしくマイハニー」

マイハニーって……。
課長を押しのけて私に自己紹介してきた。
何ともチャラい……。
明るく着飾らないというかおおらかな性格をしていた。
外国の方って……こんな感じなのかしら?
私は、さらに戸惑ってしまった。

「よろしく……お願いします。
私は、二階堂結衣です!」

「結衣か。可愛い名前だね。
まさに君のためにあるような名前だ」

そう言うと私の手の甲にキスをしてきた。えぇっ!?
突然やられたのでドキッとしてしまった。
その姿は、絵になるぐらいにカッコいい。
まさにリアルな王子様みたいだ。

「お前な……俺の恋人だと言ったよな……?」

後ろから魔王化した課長は、黒いオーラを漂わしていた。
こ、怖い……。
その後、ロバートさんではなかった。
ロンさんは、課長に怒られていた。
2人は、仲がいいのか悪いのか分からない。
何だか揉めているし……。

取り合えず遅いのとロンさんが
お腹が空いたとうるさいので課長は、仕方がなく
泊まらしてあげることになった。
ロンさんって一体……?
それは、課長がお風呂に入っている間に判明した。 

「えぇっ!?ロンさんも
パラリンピックの選手なんですか!?」

なんとロンさんまでもがパラリンピックの
選手だとは、思わなかったから驚いた。
しかも課長と同じ右足が義足で100メートル走るのだとか。


確かに課長のライバルだ。
こんなにモデルみたいな美形なのに
義足だなんて誰が信じるのだろうか……?

「驚いた?幼い頃に爆発事故に巻き込まれてね。
命は、運良く助かったけど右足が折れた鉄に挟まり
救出するには、切断しか方法が無かった。
まぁ神経も殺られていたしね」

軽く話すが、それは衝撃的な内容だった。
課長は、車とトラックの事故だったが
こちらは、爆発事故。一体どんなに風に
恐怖と激痛があったのだろうか。
想像するだけでも身体が震えた。怖いと思った。
するとロンさんは、ニコッと微笑んだ。

「怖がらないで。まぁ、最初は
かなりショックだったし塞ぎ込んだりしたが
今は、楽しくやっているんだよ。
俺は、こう見えても細かいことは、気にしないタイプでね。
それに運動以外は、ほとんど出来たし」

「それに、ある人に教えられ興味本位で
始めた義足と陸上。
そうしたら才能が開花したみたいで
パラリンピックが出るまでに成長してね。
周りからも『義足の貴公子』って呼ばれているよ」

ニコニコしながら話すロンさんを見て
凄いなぁ~と思った。
自信に溢れる姿も凄いがその呼び名もだ。

義足の貴公子……確かに
美形のロンさんに似合う呼び名だわ。
きっとモテモテなのだろうなぁ……。

「今は、モデルもやっているのだけど……うん。
このジャパニーズ・ラーメン実に旨い」

ロンさんは、そう言いながら
美味しそうにラーメンを食べていた。
お腹が空くと言うのでラーメンを作ってあげた。
ご飯は、炊いていなかったので申し訳ないが。

「すみません。ご飯を炊いていなかったので
明日は、和食にしますので」

「いや、いいよ。旨いし。
こっちのおつまみなんて実に絶品だ。
結衣は、料理が上手いんだね」

「いえ……そんな」

褒めてくれたので、とても嬉しかった。
インスタントラーメンなのだが……。
おつまみも喜んでくれた。


しかし、モデルなんて凄いな。
さすが義足の貴公子……。
私は、ロンさんに感心していた。

「いや~こんな可愛い上に料理が上手なんて
ますます好みだな。結衣。
日向は、やめて俺と付き合わないかい?」

ロンさんは、手を取りニコッと微笑みながら
そう言って口説いてきた。
えぇっ~!?

思わない言葉に心臓がドキドキと高鳴ってしまった。
いや。そんなの無理だし……えぇっ!?
慣れない口説き文句に私は、動揺してしまった。だが

「ほう……?次も同じ台詞を言いやがったら
お前をドラム缶に詰め込んで日本海に沈めてやる」

ビクッと身体が震えた。
いつの間にか課長がお風呂から出ており
ロンさんの背後に立っていたからだ。
凄い怖い表情で……。

「嫌だなぁ~ドラム缶で日本海だなんて
今の時期だと冷たいだろ?」

えっ?
そういう問題では……。

「日本海が嫌なら太平洋でもいいぞ?
二度と上がって来れないように重石をつけてやる。
心配するな。
呼吸が出来るように穴も開けておいてやる」

か、課長……それだと溺死してしまいます。
いや、それよりも殺す気満々ですか!?
課長の黒いオーラを漂わした魔王化に
恐怖を覚えた。本気だ……目が笑っていない。
ロンさんは、気にせずに笑っていた。

「アハハッ……ごめん、ごめん。
冗談だから機嫌直せよ」

「お前が言うと冗談に聞こえんぞ。
まったく油断も隙もない」

課長は、ハァッ……と呆れたようにため息を吐いた。
私は、それを見てフフッと笑った。
課長の怒りは、怖いけど
2人のやり取りは、面白かった。仲がいいなぁ……。
すると笑っていたロンさんは、フッと真剣な顔つきになった。

「まぁ……だが、お前に大きく
影響を与えられたのも事実だ。
だから今回の復帰は待ち望んでいた。
お前に勝って完全な1位になる」


ロンさん……。
ロンさんは、本気で課長と戦う気なんだ。
真剣な目がそれを語っていた。

「完全な1位って……お前は、すでに
パラリンピックで金メダルを取っているだろ?
周りからも『義足の絶対王者』って
言われているくせに」

「それは、お前の居ない時の話だ。
俺は、まだお前に競い勝ったことがない。
だからこそ、今回の東京パラリンピックでは、
日向。お前を倒して……完全な1位になる!!」

「まぁ……今日のを見て。確信したが。
今回は、俺の方が上だとな」

ロンさんは、そう冷たい表情で言い切ってきた。
さっきの気さくな感じとは違い
王者としての貫禄だった。
課長をわざと挑発する態度に私は、息を呑んだ。
するとその挑発を乗るように

「いい度胸じゃねぇーか。ロン。
いいだろう。その勝負乗ってやろうじゃねぇーか。
どっちか上が決着をつけてやる」

ギロッと課長も負けじと睨み返した。課長……。
喧嘩にならないかとハラハラしながら
2人を見ているとロンさんは、ニコッと笑った。
えっ……?

「じゃあ、俺が勝ったら結衣をちょうだい?」

「……殺すぞ?お前……」

あ、元のやり取りに戻った。
ロンさんは、貫禄を見せて怖い表情をしても
根が気さくで優しいせいか長く続かないらしい……。 
課長は、怒ってもロンさんは、笑っているし。

結局、因縁のライバルだが2人は、
仲のいい親友同士なのだろう。
何だかホッとした。安心した私は、お風呂に入った。
そしてお風呂から出ると課長とロンさんは、
一緒にお酒を飲んで話をしていた。

お互い英語だったので何を話しているのか
分からなかったけど何だか楽しそうだ。
男同士の世界みたいで
微笑ましくも羨ましくもあった。

しばらくするとロンさんは、酔っ払って
ソファーの上で眠ってしまった。
私は、ロンさんに毛布を掛けてあげた。

スヤスヤと眠るロンさんを見ていると
パラリンピックの金メダリストとは思えない。
義足なのもかなり驚きだが、こんなに美形なのに
陸上の世界王者だなんて……。


「凄いですね……ロンさんは。
亮平さんがまたパラリンピックで走るのを信じて
待っていてくれていたなんて」

きっと聞いたときは、凄く喜んでいたのだろう。
課長を信じていたのならなおさらだ。

「まぁ、因縁のライバルだからな。
お互いに負けず嫌いだし」

「それに……かなりの努力家だ。
早々と簡単に諦めたりしないだろう」

「ロンさんがですか?」

私は、驚いて課長に聞き返した。
かなりの努力家?
だって本人は、何でも出来たと言っていたし
スマートで、あまり細かい事を気にしないタイプに見えた。
すると課長は、少し切なそうにロンさんをチラッと見た。

「ロンは、人前で弱音を吐かない。
俺も人のことは、言えないが……変なプライドや
負けず嫌いな性格で絶対に努力を人に見せたがらない。
だが……その笑顔の裏には、たくさんの苦痛や
努力で築き上げてきたものだ。
事故だって、その時に最愛の母を亡くしているのに
辛さを見せようとしない。
だから俺との勝負も絶対に投げ出したりしない。
俺は、違う形で勝負を挑むつもりだったが
アイツは、パラリンピックで決着をつけたいのだろう。
自分のためにも……」

私は、その言葉を聞いたとき
とても申し訳ない気持ちになった。
彼の気持ちを軽く考えていた。
何でもスマートにやれるものだと決めつけて
彼の辛さや想いを……気づいてあげられなかった。

これじゃあ課長と同じだ。
どんな気持ちでいたのか分かろうともしなかった。
申し訳ない……。
すると課長は、私の頭を優しく撫でてくれた。

「お前は、初対面なんだ。分からなくて当然だ。
大体コイツは、言動が軽過ぎる。
特に女性には、カッコつけるから余計にたちが悪い」

ギロッとロンさんを睨むと頬をつねった。
私は、慌てて止めた。

「か、課長……起きちゃいますから」

「だが俺は、そんな奴は嫌いではない。
真っ直ぐ前を見て努力をする姿は、共感が持てる。
宣言通り俺に勝つためには、血の滲むような
努力だって平気でやる奴だ。
俺もそれに応えるためにも全力でやる」

課長は、そう決心を改めていた。お互いに
似たところがあるから通じるものがあるのだろう。
因縁のライバルだからこそ
全力で挑みたいのだろう。いいなぁ……。
羨ましく思っていたら
課長にギュッと抱き締められてしまう。


「あ、あの……亮平さん?」

急に抱き締められたので驚いてしまったが
心臓がドキドキと高鳴った。

「心配するな。今回の大会は、コイツの
因縁の戦いもだが1番は、
お前の両親に認められることだ。必ず結婚するぞ」

「亮平さん……」

私が不安や寂しがってると気づいて
優しい言葉をかけてくれた。
嬉しい。そうしたらキスをしてくれた。
不安な気持ちを忘れるような甘いキス。
だが課長は、そのまま続けようとしてきた。
えっ……えぇっ!?

「亮平さん待って下さい。
あの…ロンさんが居ますので」

「あぁ、放っておけ。
結衣にちょっかいをかけた罰だ。
たっぷりとコイツに聞かしてやればいい。
来たことを後悔するぐらいにな」

そう言いながら課長は、ニヤリと笑った。
ま、魔王化になっている!?
その後は、何とか寝室にしてもらったが
恥ずかしいぐらいに声を出してしまった。
課長は、寝ている
ロンさんに倍返しをしてしまうのだった。

うぅっ……恥ずかしい。
何とか起きて朝食の準備した。
課長は、その間にシャワーを浴びていた。

「ふわぁっ~good morning……結衣」

「お、おはようございます。
よく眠れましたか?」

ロンさんがあくびをしながら起きてきた。
昨日の今日で何だか気まずい。
するとロンさんは、やれやれとした表情をしてきた。

「昨日は、君達があまりにも盛り上がるから
目が覚めちゃって、寝るのが大変だったよ」

苦笑いしながら言われてしまった。
やっぱり聞かれていたんだわ!!


「す、すみません」

あぁ、恥ずかしい……。
想像しただけでも顔から火が出そうだ。

「結衣。謝らなくていいぞ。
わざとやったのだからな」

驚いて見ると課長は、いつの間にか
シャワーを浴びてリビングに入ってきていた。
確かにわざとだったけど……。

「酷いなぁ~君は。まぁ、いいけど」

えっ?いいのですか!?
ロンさんの反応が変わっているので
驚いてしまった。気にしてないようだった。
それから支度を終わらせて3人で朝食をするのだが
何とも不思議な組合せだった。
ロンさんは、私の作った朝食を美味しそうに
食べてくれた。

「おーこの味噌スープが旨い。
この焼き魚も絶品だ」

「味噌スープじゃなくて味噌汁だ」

「アハハッ……気に入ってくれて良かったです。
そういえばロンさんって随分と日本語がお上手ですね。
何処で習ったのですか?」

カタコトではないし凄く上手い。
外国人の方にとったら難しい言葉も知っているし。
誰に習ったのかしら?

「あぁ、日本語の勉強をしたからね。
それにある人が日本人だったから
その影響かな」

ロンさんは、そう言ってクスッと笑った。
ある人……?
私は、不思議そうに首を傾げた。

「それは、どなたですか?」

これって聞いてもいいことかしら……?
辛い過去を思い出すようなら避けたいし

「俺の義理のお母さん。
実母は、爆発事故で亡くなってね。その後に
父が再婚をしたんだけど。その人が日本人なんだ。
気さくな人で俺にたくさんの日本語や
文化のことを話してくれた」