「優勝……おめでとうございます。
やっぱり壁は、高かったです。
勝つつもりで挑んだのになぁ……」

そう言った永井さんの目には、涙が溢れていた。
彼の真剣さが伝わってきた。
憧れだからこそ近づきたい。
越えたいと思うのは、選手として当然だろう。
例え負けたとしても……それは、何よりの財産だ。

「あぁ、ありがとう」

課長は、その手を受け取った。ギュッとお互いに
握手をする姿は、共に争いあった選手だった。
なにより、お互いに通じるものがあった。
私は、胸が熱くなる。

「永井君。君の走り方は、確かに凄かった。
これから、もっと努力をしていけば今以上に
成長して行くだろう。
また走る機会があったら共に戦おう」

「はい。」

課長は、永井君に対して激励を送った。
涙を溢れながらも永井さんは、笑顔で返事した。
憧れの選手に褒められて嬉しかったのだろう。
この2人の競走は、また見たいと多くの者が
思っただろう。そして感動したのだろう。

表彰式で2人が並ぶと応援席から
たくさんの握手がおきた。私も握手を送った。
すると私は、応援席で見ていた
あの外国人の姿が居ないことに気づいた。

あれ……?もう帰っちゃったのかな?
一体、誰を応援していたのだろうか。
不思議な人だったな。私は、そんな風に思った。
しかし知らなかった。その人が私達を
脅かす人物だったことは……。

そして閉会式が終わると予選大会が終わってしまった。
長くもあっという間の1日だった。
課長は、帰り際にはたくさんのファンや
子供達に囲まれていた。

「日向選手。握手して下さい」

「すげぇ~カッコ良かったです。
サインして下さい!!」

課長は、苦笑いしながらも
子供達に握手やサインをしてあげていた。
まるで有名な選手や芸能人を見ているようで
私まで照れてしまった。凄いなぁ……課長は。
課長のことを知れば知るほど尊敬し好きになっていく。

私は、フフッと笑った。
そして帰りは、皆で祝杯を挙げた。
課長は、車で来たので烏龍茶で済ましていた。
たくさん盛り上がり帰りは、20時ぐらいになってしまった。