皆の温かい声援が聞こえてきた。
追い上げようと永井さんのスピードが上がって行く。
その速さは、ダークホースと言われているだけの
素質を持っており課長に追い付き出した。
あ、ダメ……逃げ切って!!

予想出来ない力を見せてきた。
私は、ハラハラしながらその競技を見守った。
逃げるように走り続ける課長に
逃がさないと言わんばかりに必死に
食らいつこうとする永井さん。

その走りを見て誰が義足だと思うだろうか?
これは、もう日本選手としての名誉ある競走だ。
2人は、誇りにかけて何より優勝にかけて戦っている。
お願い……勝って!!
そしてゴールをした。誰よりも前に出ていたのは……。

『優勝は、日向亮平選手です!!
大会自己新記録の10秒92』

アナウンスが流れた。
勝った……課長が優勝したんだ!?
私は、涙を流しながら喜んだ。嬉しい。
周りからも大きな握手と声援が飛んだ。

「おめでとーう!!」

「やったー日向選手!!」

観客席で応援をしてくれた子供達も大喜びだった。
2人共、全力で走ったせいか
息を切らしながらヘトヘトに座り込んでいた。

「亮平さん!!」

私は、慌てて課長のところに駆け寄って行く。
篠原さん達も。
私は、嬉しさのあまり課長に抱き付いた。
嬉しさや涙でギュッとしがみついた。
すると課長は、よしよしと背中を叩きながら
抱き返してくれた。

「優勝……おめでとうございます」

泣きながら気持ちを伝えた。
人前だったがそんなことは気にしていられなかった。

「あぁ、ありがとう」

課長が背中をポンポンと叩きながら
お礼を言ってくれた。しかしその時。
永井さんは、ふらふらになりながら立ち上がると
こちらに近付いてきた。
ビクッと反応すると課長も立ち上がった。
永井さんは、課長に手を差し出してきた。