課長は、気にせずに敬意を払い握手する。
だが、微妙にお互いに握手に力が入っているのは、
私でも見て分かった。
「ですが……下克上でいかしてもらいます。
負けませんから」
強い目差しで課長に宣言してきた。
彼は、憧れの課長から1位を奪い取る気だ。
しかし課長も負けてはいない。
「いい心がけだ。俺は、強気に出る奴は嫌いではない。
上がどれぐらい高いか見せてやる」
それ以上に怖い目付きで睨み返した。
お互いに火花が飛びそうな雰囲気だった。
凄い……。
お互いに譲る気がないようだ。
私は、不安に思いながら心配そうに見ていた。
すると
車椅子の決勝のアナウンスが流れた。
慌ててそちらに目を向けると源さんが
走るところだった。
源さんは、合図の号砲が鳴ると共に走った。
決勝なだけはあって選手は、強者ばかりだった。
差はギリギリだと思ったが
真ん中辺りから源さんの走りが良くなって行く。
天才レーサーの言われているだけはあった。
そして、そのまま1位を独占して行く。
見事な走りでパラリンピックの切符を手に入れた。
戻ると春子さんと嬉しそうに抱き締め合っていた。
さすが源さん。凄いなぁ~と思った。
あ、そういえば!!
慌てて視線を戻すといつの間にか
永井さんは、何処かに行ってしまっていた。
あら、居ない……。しかし憧れていても
課長のことをライバルだと思っているのね?
一体どんな気持ちなのだろう?
それこそ越えたくて仕方がないという
感じなのかしら?
彼の存在は、脅かされるものではないといいけど
不安に思っていると課長に頭をポンポンと撫でられた。
課長……?
振り返るとクスッと笑ってくれた。
そこには、不安を感じさせなかった。
「心配するな。俺は、負けないから」
課長は、大丈夫だと言ってくれた。
そうよ。課長は、負けるわけがない。
私が信じないでどうするのよ!
課長のことを信じたいとそう思った。