鬼課長の魔法の義足。(11/24修正完結済み)


鬼課長が笑うのは、反則だと思う。
撫でられた頭が……熱い。
このドキドキする気持ちは、何だろうか?

「それは、恋ね!」

「は、はい?」

その後の練習は、無理しない程度に走り
終わらすと更衣室で綾音にさっきの出来事を話した。
するとそんなことを言ってきた。

私が、課長に恋!?
えっ?いやいや……そんなはずは。
怖いはずの課長。でも、優しいところもあって
凄い努力家で……。

色々と考えている内に
自分の気持ちが分からなくなってきた。
私は、課長のことをどう想っているのだろう?
分からない……。

「そんなの……分からない」

「あらあら、自覚なし?まぁ、少しずつ
自覚して行けばいいのじゃない?まだまだ
たっぷりと時間があるのだし」

綾音は、そう言うとニヤニヤと笑ってきた。
面白がっているし。
しかし、そんなこと急に言われても困ってしまう。
そもそも、それで恋と決めつけていいものなの?

ただ意外過ぎる素を知ってしまっただけで
興味本位かもしれないし……。
その時は、自分にそう言い返した。
だが翌日。会社でもそのことばかり考えていた。

チラッと課長を見てみる。
かかってきた電話に対応していた。
会社では、鬼課長と言われているが上司からも
信頼をされているらしい。

そういえば課長って恋人とか居るのだろうか?
独身だし居ないと思っていたが……もし恋人が居たら?
そう思ったら胸がズキッと傷みだした。

あれ?何だか気持ちがモヤモヤする。
自分の気持ちに違和感を覚えた。
すると向かい側に座っていた同期の紺野さんが

「ねぇねぇ二階堂さんって最近。
課長ばかり見てるわよね?もしかして
課長のことが好きなの?」


私にそんなことを言ってくるではないか。
えっ?えぇっ……!?
突然の質問に激しく動揺してしまった。
違う……そんなのではない!!

「ち、違いますから。私は、
課長のことなんて好、好きじゃありません」

「ちょっ……二階堂さん。分かったから
声大きいから」

慌てて止めてくる紺野さんにハッとした。
思わず大声を出してしまった。
しかし気づいたときには、すでに遅かった。

私は、慌てて手で口を押さえる。
そして課長を見てみると電話は、すでに終わったらしく
こちらを凄い目付きで睨んでいた。
ひぃぃっ!?

「お前の気持ちは、よーく分かった。
ここは、色恋を話す場所ではないのだぞ?
アホなことを話す前に仕事しろ!!」

バンッとデスクを叩きながら凄い剣幕で
怒鳴られてしまう。

「す、すみません」

慌てて謝るとパソコンを打つが内心ショックだった。
どうしよう。課長に聞かれちゃった。
変な誤解をされちゃったよ……。

「ごめんね……二階堂さん」

「いえ、大丈夫です」

申し訳なさそうに謝ってくる紺野さんに私は、
苦笑いした。だが内心はそれどこではない。
チラッと課長を見るとまだムスッと
不機嫌そうにしていた。

慌てて否定的なことを言ってしまったが
そんなつもりは……あれ?
私……何でそんなにショックを受けているのだろう?

何も想っていなかったら怖いからと言って
そこまでショックを受ける必要もないのに。
自分でも不思議でならなかった。

「あら、二階堂さん。どうしたの?
顔が真っ赤よ?」


今井さんが私の顔に気づいてそう言ってきた。
えっ?と思い慌てて手で頬を隠した。
あれ……?

もし綾音の言う通りだとしたら
私は、課長のことが好きなの?えぇっ!?

イマイチ自覚が出来ないため自分自身も
驚いてしまった。
まさか、課長のことが好きだなんて
こんなことって有りなの!?

頭の中がパニックになってしまった。
しばらく混乱していたがとりあえず謝ろうとした。
誤解されてやりにくくなっても困るし……。
だが課長も私も仕事が忙しくてなかなか
誤解を解けないままお昼休みになってしまった。
どうにかして謝ろうと課長の様子を伺うが……。

すると課長は、立ち上がり何処かに
向かおうとしていた。
私は、慌てて追いかけようとするが

「ねぇ、二階堂さん。ちょっといい?」

紺野さんが私に話しかけてきた。
今、忙しいのに……。チラッと課長を見ると
すでに何処かに行ってしまい姿はなかった。
あぁ、居なくなっちゃった……。

そんな誤解されたままなのに……。
ガッカリしていると

「さっきは、本当にごめんなさいね。
お詫びと言ってはなんだけど
今度、合コンがあるのだけど二階堂さんも
一緒に行かない?」

紺野さんは、私に合コンに行かないかと誘ってきた。
えっ……また合コン!?

私は、紺野さんの発言に驚いた。
彼女らは、華やかで可愛いのだが
頻繁に合コンに行っているらしい。
だからか、たまに私にも誘ってくれるのだが
行き慣れてないため断っていた。

「えっと……」

「今回の合コンは、海外営業部の桐山君も
参加予定なの。
でも参加予定だった子がダメになっちゃって。
お願い。参加費は、タダでいいから
嫌なら途中で帰ってもいいし……お願いします!!」

正直合コンに興味がないし
それどころではないのだけど……こうも
頼まれると何だか断りにくい。

「いつ……やるの?」


「明後日。夜の19時に居酒屋『千鶴』で
やるのだけど」

明後日ならスポーツクラブも休みだし何とかなるか。
本当なら行く気もないところだけど
これ以上断るのもね……。

「参加だけでいいなら……」

「本当!?良かった~もしかしたら
そこで新しい出会いがあるかもしれないし。
二階堂さんも課長のことは、忘れて
楽しんでくれたらいいから」

いや……参加だけって言っているのだけど
ちゃんと聞いてる?
仕方がなく苦笑いしていると後ろから嫌な気配がした。

「お前らのその熱心さは、仕事に
行かせればいいのだがな」

ビクッ!!
慌てて後ろに振り返るといつの間にか
課長が後ろに立っていた。
ま、まさか今の話、聞いていた!?

「か、課長……今、出掛けたのでは?」

「忘れ物を取りに来たんだ」

紺野さんが恐る恐る尋ねる。
すると課長は、ギロッと睨み付けてきた。
それだけ言うと自分のデスクの方に行ってしまった。
忘れ物ですが……。課長にしては珍しいことだが
私は、ショックと驚きで硬直してしまった。

「何あれ……こわ~い」

「二階堂さん。悪いこと言わないから
課長は、やめた方がいいわよ。違う男にしなって」

紺野さんを含め数人の女性社員に言われる。
だが私は、そんなことよりも
また課長に聞かれて誤解をされたことで
頭がいっぱいだった。

どうしよう。これだと余計に課長と険悪になっちゃう。
何とかして誤解を解きたい。
せめてスポーツクラブで……。


仕事を早く終わらせると私は、
スポーツクラブに向かった。ここなら
誰も邪魔されずに課長と話が出来るだろうと思っていた。

「えっ?あんた……随分とタイミングが
悪いわねぇ~二度もやるなんて」

「……そうなの。謝るタイミング逃しちゃって」

廊下で綾音に会ったので今日のことを
相談に乗ってもらった。
綾音は、事情を聞いて呆れていた。
だって……謝りたくてもタイミングが掴めなくて

「早めに謝っておきなよ?
誤解をされたままが嫌なら」

「う、うん。」

それは、分かっている。ただタイミングが……。
ハァッとため息を吐きながら着替え終わると
陸上用のトラックに向かった。
まだ課長は、来ていないようだった。
居ない……。キョロキョロと捜していると

「日向さんを捜しているのですか?」

えっ……?
後ろから誰かに声をかけられたので
振り返ると夏美さんだった。

「二階堂さんって、もしかして
日向さん狙いなんですか?
だから、ここの会員になられたのですか?」

夏美さんが突然そんなことを質問してきた。
課長狙いって……えぇっ!?

夏美さんの言葉にかなり動揺する。
だって彼女までそんなことを言ってくるから
私は、そんなつもりないのに……。

「いや、あの……。
そんなつもりで入会した訳ではありませんから。
私は、たた走りたくて……」

そう言おうとしたが、きっかけになった
動機が似ていることに気づいた。
私は、課長の走りを見てこのスポーツクラブに入った。
同じように走りたくなって……。


課長の走る姿は、とても素敵だ。あれれ?
私……やっぱり課長のことが好きなの?
考えれば考えるほど心臓がドキドキしてきた。

「えっ?どうして
顔が赤くなっているのですか?」

夏美さんが不思議そうに聞いてきた。
それは、こっちも聞きたい。
どうしてこんなに動揺をするのだろうか?
心臓の心拍数が止まらない。

「あ、あの……」

「あ、日向さん!!」

えっ?
慌てて振り向くと課長がトラックに入ってきた。
顔を見たら余計に心臓がドキッと高鳴ってしまった。 
あ、誤解を解かなくちゃあ……!?
しかし、そう思っていたら

「日向さーん!!」

夏美さんは、嬉しそうに課長のところに
駆け寄って行ってしまった。えっ?もしかして
夏美さんって課長のことが好きなの?
だから、あんなに敵意を剥き出しにしていたの?

もしそうだとしたら……。
そう考えたら胸がズキッと傷みだした。
すると課長が私に気づいてくれた。
だが、すぐに目線を夏美さんの方に逸らされてしまう。

あ、避けられた……。
胸がギュッと締め付けられそうになった。
やっぱり怒っているのだろうか。

私が否定的なことを言ったから……。
せっかく話せるようになれたのに。
しゅんと気持ちが落ち込んでしまう。
泣きそうになっていたら

「二階堂。何をやっているんだ?
ウォーミングアップは、終わっているのか?
やっていないのなら一緒にやるから来い」

「えっ?は、はい。」

まさか呼び掛けてくれるなんて
思わなかったから驚いてしまった。
でも凄く嬉しかった。さっきのは、
たまたま目線が逸れただけなのかな?
どちらにしろ話しかけてくれたのが嬉しかった。


私は、ドキドキする気持ちを抑えながら
課長のところに向かった。
ストレッチをしてから軽くジョギングする。
私は、課長の後ろを走った。

義足をつけていても走るのが速い。
必死について行こうと走っていると途中で
速さを合わせてくれた。

「大丈夫か?無理して
俺に合わせなくてもいいぞ?」

私を気にかけてくれる。優しい……。
あ、今がチャンスだ!
ずっと謝れなかったから今謝ろう。

「あの……会社で失礼なことを言って
すみませんでした」

私は、必死になって課長に謝罪する。
すると課長は、チラッと私を見るがすぐに
前を向いて走り続けた。

「あぁ、そんなことか……別にいい。
嫌われることには慣れている」

嫌われていることになれている!?
見ると背中で顔は、見えなかったけど
何だか切なそうな背中に思えた。

嘘だ……嫌われるのに慣れていても
傷つかない訳がない。
それに私は、課長が嫌いではない。

「ち、違います!!
私は、課長のことが嫌いだなんて
思ったことは、一度もありません」

必死になってそう言った。
誤解どころか嫌われていると思われるのが
堪らなく嫌だった。すると前に走っていた課長が
急に立ち止まってきた。

急に立ち止まったから私は、課長の背中に
勢いよくぶつかってしまう。
そして、そのままドサッと尻餅をついてしまった。

「キャアッ!?
課長……急に止まらないで下さいよ……」

「あ、すまない。驚いて……つい。大丈夫か?」

そう言い手を差し出してくれた。
私は、その差し出された手にドキッとした。


「は、はい。大丈夫です……」

私は、その手を受け取り立ち上がった。
手が触れて心臓がドキッとさらに高鳴った。
そうしたら課長は、私の手を離さずに
いつの間にか来ていた篠原さんに

「すみません。二階堂が
また怪我をしてしまったので、医務室に
連れて行きます」と言ってきたではないか。

えぇっ!?
私……尻餅をついたけど怪我なんてしていない。
それよりも手が……。

「ほら、行くぞ。二階堂」

「えっ?は、はい」

ワケが分からずに動揺をしてしまう。
引かれた手が熱い。
そして強引に連れて行かれると思ったが
課長は、廊下に来ると手を離してこちらを向いた。

「さっきの話は、本当か?」

そう言い私に詰め寄ってきた。
えっ?さっきって課長のことを嫌いではないと
言ったことだろうか?

課長を目の前にすると恥ずかしくなってきた。
本心だが、よく考えたら違う意味にもとれてしまう。
私は、モジモジしながらコクりと頷いた。
すると課長は、ホッとした表情をしてきた。

「そうか……それならいい」

えっ……?
何故そんな表情をするのか分からない。
でも心臓がドキッと高鳴ってしまった。

「それなら前もって言っておく。
二階堂。合コンに行くな!」

すると課長は、私にそんな事を言ってきた。
えぇっ……!?
課長の爆弾発言に驚いてしまった。
何故課長に合コンに行くのを止められるのだろうか?

「どうして……ですか?」


「俺が嫌だからだ!」

課長は、ドキッパリと答えてきた。
俺が嫌だからって……どういう理屈なの?
まったく意味が分からなかった。話が唐突過ぎです……。

「あの……それってどういう意味でですか?」

心臓がドキドキと高鳴ってしまう。
どうしよう……変な期待をしそうだ。

「どういう意味って……そのまんまだが?」

いや、だから意味が分からないんですってば!!
それだと……。
課長は、無駄な言葉が嫌いなのか
必要最低限なことしか話さない時がたまにある。
すまり察しろと……?
そう言いたいのだろうか?

「大体、合コンに行くとか、どういうことだ?
会社でも女性共は、男がどうとか
合コンがどうとかって、そればかり話をしている。
会社は、男を漁りに来る場所ではない。
それも分からないとは……学生気分のままで
居られても困るぞ」

何故だか説教が始まってしまった。
それのほとんどは、紺野さん達なのだが
課長にしたら、どちらも同じらしい。

説教をされて、しゅんと落ち込んでいたが
途中で篠原さんが呼びに来てくれて難を逃れた。
た、助かった……。
こんなことなら合コンに行くのを無理やりでも
断るべきだったわ。

課長に誤解をされるし、説教されるし散々だ。
ハァッ……と深いため息を吐いた。
そして、そのままトラックに戻り普通に走る練習をした。
結局、課長の真意が分からないままだったけど……。

一体何だったのだろうか?
課長の発言が不思議で仕方がなかった。
そんな気持ちを抱いたまま翌日。課長は、休みだった。
待っても来る気配はない。あれ?どうしたのかしら?
課長が寝坊とか考えにくいし……。

「おの……課長は、休みですか?」

私は、今井さんに尋ねてみた。
前も教えてくれたし今井さんなら
何か理由を知っているかもしれないと思ったからだ。

「あぁ、今日は、病院に寄ってから
出勤するって連絡が来たわよ!
ほら、あそこにも書いてあるでしょ?」

そう言い指を指した方を見ると確かに掲示板に
AM年休み(病院)と書いてあった。