ひと夏が終わり、新しい季節を迎えると、僅か一ヶ月ばかりの間見なかったクラスメート達が、随分と変わったように思える十代の端境期。

 紀子の変わり様は、周囲の誰もが驚いた。

 始めは何が何だか判らないまま、変貌した紀子をただ眺めているだけだった周囲の者達の間に、一つの噂が流れた。


 紀子のバックには族のヘッドが付いている……

 あいつは族のリーダーの女になった……

 族の皆にまわされてる女……


 だが、そう陰で噂はしても、あからさまに直接言って来る者は誰一人として居なかった。

 あれだけ紀子をイジメていたグループまでもがである。

 着てる物や外見上は以前と何ら変わっていないのに、彼女の内側から湧き出るものが、がらりと変わった。

 いや、変わったのではなく、彼女自身の本質がやっと芽吹いたといった方が正しいのかも知れない。

 噂の殆どは事実と違った。


 紀子があの日廃屋の隅で女になった時、心に厚く被さっていた殻がきれいに砕かれた。

 自分の身体の上で必死になって腰を振る男を冷静に眺めていた。

 野獣のように荒々しく扱われながらも、相手の行動を一つ一つ冷静に観察している自分が居た。

 身体の中心を貫く激痛以上に、男の滑稽な振る舞いに笑いを堪えるのに必死だった。

 下から見上げる男の鼻の穴から鼻毛が見え、思わず噴き出しそうになった。


 男がいく瞬間の表情が、こんなにも可愛いものだと初体験で知った女……


 彼女の処女を奪った男が言った。


「お前、怖くなかったんか?他の男にもやられると思わんかったんか?」

「うぅぅん……。さらわれた時はそりゃあ怖かったけど、アタシあんたの事、前からかっこええ人やなあって思ってたから……。
 それに、本当はすごい優しい男やってアタシ知っとるし」

「……?」

「やっぱり覚えとらんようやな……。
 アタシが小さい時な、公園の滑り台から落ちて大怪我してわんわん泣いてるのをあんたが病院まで連れてってくれたんやで」

 男は思い出した……