苦しい。この人はなんて素敵な人なんだろう。なんでこの人を傷つけてしまったんだろう。なんでこの人と、一緒に居られないんだろう。

泣きそうだった。でも歯を食いしばって堪えた。こんな所で私が泣いたらまたお世話になってしまう。私はまた白井君を利用してしまう。そしてまたきっと、白井君を傷つけてしまう。

「……っ…」

何か言わなきゃと思うのに、声が出せなかった。今口を開いたらきっと涙も一緒に溢れてしまう。とにかく俯いて耐えるしかなかった。何も言えない。何か言わなきゃ。早くしないと。そんな事がぐるぐる頭の中を巡っているだけの無駄な時間だった。白井君に迷惑を掛けているだけの時間だ。どうしよう、まず何からすればいいのだろう。焦れば焦る程に何も出来ない。ーーそんな時、

「相原さん」

深く俯いた私の後頭部に、声が降って来る。

「もしかして、何かあった?」

心配してくれている、優しい声。私より低くて、心の底に落ちて積もっていく、安心する声。それが今私の為に与えられた瞬間…私は、限界を迎えた。本当に堪え性のない奴だと思う。

「…し、」
「し?」
「白井君が好きだよ〜!飼い犬扱いしてごめんなさい〜!」
「…え?」

今までのシリアスな雰囲気はどこへやら。なんとも情けな過ぎるけれど、本気の、私の隠していた想い全てが詰まった言葉が飛び出した。そして大量の涙と共に悩み事が、次から次へと出るわ出るわ。

「わ、私っ、彼氏が居るの。でも付き合ってるのか分からなくなってて悩んでたんだけど、それすらおこがましい事に気付いたの。悩む必要なんて無かったの。なのに白井君に励まして貰っててごめんなさい。白井君に慰めて貰いたがってごめんなさい。でも白井君の事飼い犬とは思ってないの。癒しを求める所は似てるのかもしれないけど、でも白井君は私には勿体無い素敵な人だってちゃんと分かってるの!」