私の中におっさん(魔王)がいる。

「黒田様の部下で、翼(よく)ともうします」

 翼さんは挨拶を終えると、「では、失礼します」と告げて、愛想なく部屋を出て行った。それを合図にしたように、結さんも柳くんも部屋をあとにした。

 私は若干ぽかんとしてしまった。
 従者とか、部下とか、そんな人達がいるって毛利さん達ってそれなりの立場がある人達なの? 少年にしか見えない黒ちゃんにさえ、部下がいるって……。しかも、大人で、こわもてな。
 私は、ゆっくりと部屋に残っていた月鵬さんを見た。

「あの、月鵬さんはアニ――花野井さんの部下の方なんですよね?」
「部下と申しますか……。参謀をやらせていただいておりますが、まあ、部下という位置づけでしょうか」

 月鵬さんは独り言のような口調で言った。

「参謀?」
「ええ。花野井は元は山賊の頭領で、私はその補佐についていたもので」
「山賊!?」

 この世界には、そんな物騒な集団までいるの!? っていうか、こんなモデルさんみたいにキレイな人が山賊で、そのカシラがアニキだなんて……。たしかに、はじめて会ったときは怖いと思ったけど、すごく良い人なのに……。とても信じられない。
「ですが現在は山賊を解散し、花野井は岐附の将軍をしております」
「あっ、そうなんですね」

 良かった。昔の話なんだ。

「私も彼率いる軍の参謀をさせていただいております」
「将軍……というと?」
「将軍は一万を越える兵を動かせる人物のことです。次いで、三関(さんせき)、小関(しょうせき)、乎関(こせき)、関(せき)、百兵長(ひゃくへいちょう)と続きます」
「じゃあ、軍では将軍が一番偉いんですね」
「いいえ。軍での最高位は、烈将軍(れつしょうぐん)ですね。十万を超える兵の指揮を任された者で、大抵は将軍から選ばれます。ですが、世界史の中では優秀な軍師や参謀から選ばれたこともあるようですよ。まあ、稀なことでしょうけど」
「へえ。すごいですね」

 でも、十万って言われても想像つかないなぁ。

「今、岐腑は誰が烈将軍なんですか?」

 何気なく聞いたら、月鵬さんは困った顔をした。

「おりませんね」
「え?」
「烈将軍は、戦争が激化してから、もしくはそう予測立てた時に任命されるものなんです。だから、今はおりません。三年前まではカシラ――花野井が就いておりましたが、何分ご自身で戦われることを好まれる方なので、実質は別の将軍が務めておりました。まあ、言っては何ですが、お飾りでしたが」

 思わず、といった感じで、月鵬さんは苦笑を漏らした。

「すごいですね!」
「いえ、うちは将軍の数が少ないので、消去法です。しかもかなり特殊だったと思います」

 月鵬さんは柔らかく笑う。でも、どこか悲しそう。
 不思議に思うと同時に、聞き逃してた言葉が頭を巡った。〝三年前までは烈将軍がいた〝――ってことは、
「あの、岐腑国って戦争中だったんですか?」
 しかも、烈将軍が立つほどの。
「ええ。三年前まで、岐腑を含め、世界中が戦っていました。なにせ、世界大戦だったのものですから」
「世界中の国が?」
 緊張が体を走った。
「ええ。九ヵ国すべての国が戦いました」
「い、今は?」
「安心してください。現在はどこの国も休戦中です」

 月鵬さんが、にこりとやさしく笑んだので、私は心底ほっとした。
 ただでさえ心細いのに、戦争になんか巻き込まれたくないもん。
 ほっと胸をなでおろした私を見て、月鵬さんがお膳を手のひらで指した。

「お食事が冷めてしまいます。どうぞお食べになって下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」

 お膳に目を通すと、黒いお椀には、薄い黄色のお米。一匹まんまの焼き魚。菜っ葉の入ったお吸い物と沢庵のようなお漬物が並んでいた。
 普通の日本食みたいだけど……。味はどうなんだろう?
 
「いただきます」

 手を合わせてから、それぞれに手を付けてみる。
 まずはお米みたいなもの。これは玄米のような味がした。やわらかいというよりは、少しシャキシャキしてる。焼き魚は、火加減が抜群なのか、身がふわふわしてる。お吸い物は、味噌の味はしなかった。でも、出汁の味はした。まあまあ美味しい。
 漬物は、そのまんま沢庵だった。
 ポリポリした歯ごたえが、食欲を誘う。
(なんだ、日本食じゃん)
 安心したのと同時に、ちょっと残念だった。見た事もない、異世界って感じの料理をどっかで期待してのかも。

「――ふう!」

 満足、満腹だ! お腹をぽんぽんと叩くと、月鵬さんがくすっと微笑んだ。
 私は気恥ずかしくて、口をもにょっと動かした。照れ隠しに、何気なく訊く。

「アニ――花野井さんって、将軍なんですよね? 他の、毛利さんとかも将軍だったりするんですか? ゴンゴドーラを一刀両断にしてたし」
「それは……」

 月鵬さんは何故か言葉を濁した。そして、申し訳なさそうに微苦笑する。

「すみません。それは、私の口からは申し上げられないことだと思います。ご本人様か、従者の方にお訪ねになってください」
「え?」

 月鵬さんは深々と頭を下げて部屋をあとにした。
(教えてくれても良いのに)
 私は口を窄めて、月鵬さんが出て行った障子を見ていた。


 私が食事を終え、障子を開けると日が陰ってきていた。もうすぐ夕方だ。この部屋に居ても暇だし、ふらふらと屋敷でも見て回ろうかな。ちょっと誰かと話もしたいし。
 障子を閉めて、適当な襖を開けると廊下が真っ直ぐに伸びていた。煌々と燃えるランプの光がなんとなく幻想的で、廊下を緋色に彩っている。

 そっと廊下に踏み出した。
 歩いてれば誰かに会えると軽く思ってたのに、数十分しても誰とも行き会わない。部屋の中からは、なんとなく気配を感じる気がするのに……。室内の景色も、まるで変わらない。

(なんかおかしい)

 不意に不安が過ぎったとき、突き当りの廊下を雪村くんと風間さんが横切った。

(良かった!)

 二人は、廊下の先の縁側から庭先に出て行く。私は後を追った。
 縁側に置いてある最後の下駄を履いて、そのまま庭を突っ切る。二人に声をかけようとしたとき、見覚えのある門が現れた。

 私が屋敷を抜け出すときに通った門だ。たしか、青龍の門とかいう。その門の前に二人は立っていた。

 なんとなく様子を見てると、雪村くんが不意に両手の人差し指と中指を合わせた。そして、眼を閉じると、真剣な顔つきになる。

「ふう……ふう……」

 深く深呼吸をする音が聞こえる。
 四回も聴こえないうちに、その音が別の音へと変わった。

「ヒュー、ヒュー」

 隙間風が耳を鳴らすような音が聞こえる。雪村くんの喉の奥からみたい。不思議に思っていると、突然、門の中心が歪んだ。
(目の調子悪いのかな?)
 目を擦るけど、歪みは直らない。首を傾げた瞬間、甲高く、鋭い音が鳴って、空気が引っ張られたようにピンと張ったのを感じた。
 それと同時に門の歪みが消えた。
「お疲れ様です。これで、結界も正常に戻りましたね」
(ああ、結界を直してたんだ)
 風間さんが雪村くんを労ったけど、雪村くんは真剣な表情を崩さなかった。

「中心は平気か?」
「……ええ。大丈夫です」

 雪村くんに訊かれた風間さんは目を閉じて、何かを探るような顔をしてから、安心したように答えた。
 雪村くんって、照れたりとかぼーっとしたりとか頼りない印象だったけど、あんな風に真剣な顔もするんだ。

「谷中様、何か御用ですか?」

飛んできた声に思わず身を竦める。

「なんでバレたんだろ?」

 呟いてから、私は隠れていた茂みから出た。
 風間さんはにこやかに笑っていたけど、雪村くんは私に気づかなかったみたいで驚いていた。

「すいません。覗くつもりはなかったんですけど、屋敷を探検しようと思ってたら、お二人を見かけて……」
「ああ」

 風間さんは納得したように頷いて、ジャケットの内ポケットから水色の紙を取り出した。色は違うけど、門の前で見た長方形の呪符のような紙だ。

「これをどうぞ」
「えっ、あ、ありがとうございます」

 とりあえずお礼を言って、渡された紙を受け取る。

「同じ廊下をぐるぐると回っているような気がしませんでしたか?」
「しました!」

 私はびっくりして顎を引く。

「この屋敷には呪術が施されていて、この呪符を持ってない者は自分がいる区画内をぐるぐるとさ迷うことになるんですよ」
「そうなんですか!」

(っていうか、やっぱりこれ呪符なんだ)
 私は渡された呪符をまじまじと見た。水色の紙に、赤い墨で文字なのか、絵なのか、良く分からないものが描いてある。

「屋敷は庭を含めた東、西、南、北、そして中央の五つの区画に別れております。西が花野井様ご一行、南が毛利様ご一行、北が黒田様ご一行で、東が我々になります」
「へえ~。そうなんですか。じゃあ、今いるここは東の区画ですか?」
「ええ、そうです。しかし、谷中様には中央の区画へ移っていただく予定です」
「どうしてですか?」
 ここでも十分なのに。

「中央にはお風呂と台所もございます。台所が近ければ暖かいうちに召し上がっていただけますし、お風呂も近いほうが湯冷めしなくてよろしいかと思いまして」
ああ~。たしかにそれは助かるかも。

「たしかにそうですね。ありがとうございます。でも良いんですか?」
「ええ。私共のせいでこちらの世界へ呼んでしまったのですから、当然のことです」

 風間さんはにこりと笑った。

「そういえば、さっき歩いてる時に人の気配が全然しなかったんですけど、月鵬さん達お付の人以外にいるんですか?」
「ええ、おりますよ」
やっぱ、いたんだ。

「よろしければ、お風呂の支度が整っておりますので、もう中央に移動なさりますか?」
「ああ~……そうですね。お風呂入りたいし、お願いします」
「では、ご案内いたします」

 にこりと笑って、風間さんは渡しから視線を外すと、少し強めの口調で声音で雪村くんを呼んだ。

「雪村様!」
「え、ああ、なに?」

 雪村くんは気のない返事を返した。

「ご案内なさって下さい」
「え!? なんで!?」

 驚く雪村くんの肩を抱いて、風間さんは耳元で何かを囁いた。

「なっ――あっ! そ、そんなこと……!」

 雪村くんが動揺しながら、風間さんの肩を押しのける。
 顔が赤い。
 どうしたんだろ?

「それでは、雪村様がご案内いたします。ごゆっくりなさって下さい」

 風間さんはにこやかにそう告げると、さっさとその場を去って行った。
 私は残された雪村くんに目を向ける。彼は真っ赤な顔でなにやら、ぶつぶつと自問自答していた。
 一体、何言われたんだろ?

「雪村く~ん。案内お願いしま~す」
「はう!」

 呼びかけると、雪村くんはあからさまにびっくりしていた。
 別に、取って食ったりしないのに。



 * * *


 廊下をてくてくと歩く。
 数分間歩いているけど、雪村くんは黙ったままだ。
 あいかわらず顔が赤いし、一向に呪符を使う気配がない。

「ねえ、雪村くん。呪符使わないと移動できないんじゃなかったっけ?」

 そっと訊くと、雪村くんはびくっと肩を竦めた。
 もう~。どんだけ人見知りなの?

「あ、ああっ! そうだった!」

 思い出したように声を上げて、雪村くんはズボンのポケットから水色の呪符を取り出した。

「つ、使うから、一メートル以内にいてね」
「え? なんで?」
「これ、持ってる人の一メートル以内にいる人も一緒に転移できるから」
「そうなんだ。すごいね」
「そう?」

 雪村くんはきょとんと首を傾げる。

「普通はそんなこと出来ないもん。まあ、この世界だったら常識なのかも知れないけど」
「ああ……まあ、常識ではないかな」
「そうなの?」
「うん」

 雪村くんはこくりと頷く。

「そういえば、こういうこと出来るのって結界師だけなんだっけ」
「どうして知ってるの?」

 ぽつりと独り言をこぼしたら、雪村くんに拾われてしまった。

「花野井さんに聞いたの」
「ふ~ん。でも、ちょっと違うな」

 今度は雪村くんが独り言みたいに呟く。

「どう違うの?」
「これは結界師だけじゃなくて、能力者なら誰でも使えるから」
「能力者? そういえば、アニ――花野井さんもすっごく足が速かったよね」
「うん。花野井さんも能力者だと思う。っていうか、キミが会った人は全員能力者だと思うよ。まあ、従者の人はわからないけど」
「そうなの? っていうか、能力者じゃない人もいるんだ」
「そりゃいるよ」
 雪村くんは当然といった感じで頷いた。
「能力者の数とそうでない人の数は常に一定ってわけじゃなくて、その年とか年代とかによって変わってくるんだ。能力者が生まれるのが多い年もあれば、少ない年もある」
「へえ」
 能力者か、なんかちょっと羨ましい。雪村くん、私が会った人全員能力者って言ってたけど、毛利さんはドラゴンを切ったし、アニキは足速いし、雪村くんと風間さんは結界師ってやつらしいし、その辺は納得だけど、クロちゃんは?

「クロちゃ――黒田くんも能力者なの?」

(どうしても、心の中で呼んでる名前が出ちゃういそうになるなぁ……)
 苦笑する私を雪村くんは一瞬だけ怪訝に見る。

「黒田くんなんて、能力者中の能力者なんじゃない? 良くは知らないけど、有名な人らしいし」

 クロちゃんが有名人? たしかに堂々としててスターのオーラっぽいのは感じるけど。
 美章ってたしか、地図で見たな。

「美章って、大国に挟まれた半島だったっけ?」
「そう。爛も戦争で甚大な被害があったけど、美章が一番悲惨だったって聞いたな」

 雪村くんはどこか悲しそうな顔で遠くを見る目をした。

「戦争……」

 そういえば、月鵬さんが世界大戦があったって言ってたっけ。

「ねえ、世界大戦ってどんな風だったの?」
「え~っと……」

 雪村くんは考えるようにしてから、困ったように笑った。

「ごめん。考えたら俺よく知らないかも」
「え? そうなの?」

 当事者なんじゃないの?
 雪村くんは頬を掻く。

「う~ん……。俺、戦争には反対だったから」
「そっか」

 そういう人もやっぱりいるよね。戦争なんてない方が良いに決まってるもん。

「興味あるなら、誰か他の人に聞いたら良いよ。風間は何でも知ってるし、花野井さんは将軍だし、多分俺以外の人ならみんな詳しいんじゃないかなぁ?」

 雪村くんは、すっと眺めの瞬きをした。その瞬間、視界がぐらっと回った気がしたけど、次の瞬間には何事もなかった。軽いめまい? 首を傾げたとき、

「――あっ! あれが風呂だよ」

 雪村くんが指を指す。
 私はその先を見た。そこには、はなれがあった。六角形の変わった建物で、それほど大きくはない。小屋という感じだ。

 縁側に下駄があったので、それを履いて、そのままお風呂小屋へ直行できるみたい。お風呂への道には立派な石が敷かれていた。

「雪村くん案内してくれてありがとう」

 見上げると雪村くんは頬を赤くして、びくっと肩を震わせた。

「あっ、うん。じゃあ、俺はこれで! ――わっ!」

 手を振って踵を返すと同時に、柱にぶつかりそうになった。雪村くんは恥ずかしそうに振り返って苦笑しながら去って行った。

 度が過ぎるくらいの人見知りなんだなぁ……雪村くんって。しみじみと思いながら、私は庭石を渡り、お風呂の木戸を開けた。
 檜に似た良い匂いが漂ってくる。
 小さなたたきがあって、すぐに脱衣所が広がっている。
 
 その奥に戸があった。
 多分、そこが浴室だろう。

 脱衣所には、竹で編んだ籠がいくつか置いてある。中に、白い布が置いてあった。布を端によけて、竹の籠の中に脱いだ制服を入れる。
 セーターを取り上げる。

「これは洗わなきゃ」

 汚れた袖口を見ると、なんだか急に哀しくなってきた。
 お母さんやお父さん、かなこに会いたい。かなこの冗談を聞いてバカ笑いしたい。沢辺さんを見てめいっぱい憧れたい。お母さんのあんまり美味しくないご飯が食べたい。お父さんの特に話すこともなくてじっと黙って新聞読んでる顔も見たい。
 家族とか友達とかって、こんなに大事だったんだ。

(ううっ。このままじゃ泣いちゃいそう)

 私は気持ちを振り切るように、浴槽へ続く戸を開けた。


 * * *


 木材の浴槽から上がると、汗を掻いたからか、気分が上向きになっていた。

(大丈夫、私は帰れる。第一、この世界に私ひとりきりってわけじゃないんだから)

 脱衣所に行って布を取る。体を拭きながら、籠に入れてあった下着を取ろうとして、手が空を切る。
 
「あれ?」

 籠の中に視線を移す。一瞬、頭が真っ白になる。置いたはずの下着がない。それどころか、制服までない。
 籠の中は空っぽだ。

「うそ、どうしよう!」

 きょろきょろと辺りを見回したときだった。
 風呂小屋の戸がガタガタと鳴った。
 ぎくりと心臓が跳ねる。

(ちょっと、待って、誰か入ってくる気じゃ!)

「ちょ、あの入ってま――」

 言い終わる前に戸が開いた。
 黒髪が覘く。
 青い瞳が視線を上げた時、彼と目が合った。

「きゃああああ!」
「うわあああ!」

 思いっきり叫んで、置いてある竹篭を手当たり次第に投げつけた。彼は驚いて悲鳴を上げながら、お風呂小屋から逃げ出した。逃げる彼に、残っていた最後の竹篭を力いっぱい投げつけた。
 籠は彼の頭に命中し、縁側と庭の境で見事にすっころんだ。

「ゆ~き~む~ら~く~ん!」

 お風呂小屋の戸から顔だけだして、苦々しく彼の名を叫ぶ。
 戸の陰で布を体に巻いた。

「ち、違うんだ! 別に覗こうとかしたわけじゃなくって……! 着替え、着替えを持っていこうと思って!」

 振り返った雪村くんは、両鼻から鼻血を垂れ流していた。
(覗きじゃない? 説得力がない!)
 ギロリと睨みつけると、雪村くんは慌てて手に持っていた物をかざした。

「う、嘘じゃないよ! ほら!」

 それは、丁寧にたたまれた浴衣みたいに見えた。
(だからって、普通入ってる時にくる!? 知らないならまだしも、案内した張本人だよ! あやしい……!)
 私はぎろりと雪村くんを睨み付けた。

「あっ! もしかして、私の服盗ったのも雪村くん!?」
「え? 服って、なんのこと?」

 訝しがった様子で首を傾げたとき、それを遮るように明るい声が響いてきた。

「あれぇ? どうしたの?」

 縁側を軽やかに歩いてきたのは、クロちゃんだった。
 私と雪村くんの顔を交互に見て、はっとした表情をした。

「はっは~ん、なんだよ坊ちゃん覗きかい? 案外度胸あるんだね」
「ち、ちが、違う!」

 指をパチンと鳴らして、そのまま雪村くんを指差す。
なんか面白がってない?

「あれ、これなんだ?」
 
 不思議そうな顔をしてクロちゃんは、雪村くんの影から何かを取り出した。その瞬間、私は思わず駆け出した。

「きゃああ!」

 クロちゃんの手からブラジャーを奪い取る。
 荒い息のままに、雪村くんを睨み付けた。

「ちが、知らな……」
「あれ?」

 ブンブンと首を横に振る雪村くんの横で、クロちゃんがまた何かに気づいた声を出した。
スタスタと歩いて、お風呂小屋の隣の木の陰をガサガサと漁る。

「これ、キミが着てた服だよね?」

 クロちゃんが掲げたのは、まぎれもなく私の制服のスカートだった。
 
「うう……こんのぉ――変態!」

 私は雪村くんに罵声を浴びせて、クロちゃんに駆け寄った。茂みの中には一式全てが無造作に置いてあった。
 それらを抱えて、私はクロちゃんを見据えた。

「ありがとう」
「どういたしまして」

 お礼を言って、お風呂小屋へと駆ける。
 戸を乱暴に閉めた。

「信じらんない。なに考えてんの雪村くん! 顔が赤かったのって、そんなこと考えてたからなの!? もう、マジで信じらんない!」

 もう、絶対口きかないんだから!