暴走族の総長様は、私を溺愛してるらしい。

煌輝said

もう少しで、文化祭。
菜乃と回りたいけど、俺はいろんな意味でそこそこ有名だから、目立っちゃうし。
今は倉庫のたまり場で、菜乃が帰るまで、いつもここで時間を潰している。

「文化祭…」
「何?総長。文化祭行きたいの!?」
「……ざっくりいくなあ、迅は」

俺の文化祭というワードに反応した迅と、それをたしなめる楓。

「で?行きたいの?総長!」
「菜乃がいるから」
「そっか!菜乃か!なら一緒に行こうよ!」
「迅、それ以上は…」

何かを察したのか、迅を止めようとする楓。
この2人は相変わらず仲がいい。

「迅は行くのか?」
「もちろん!」
「目立つぞ?」
「大丈夫!女装してくから」
「「は?」」

俺と楓の声が重なった。

「だから、女装してくんだよ!」
こいつは何言ってんだ?という雰囲気が流れる。

「大丈夫!総長かっこいいから、絶対美人だって!」
「何が大丈夫なのかまったくもって理解できないのだが?」
「バレないってこと!ね、やろうよ!」
「……」
「菜乃に会いたいんだろ!?」

“菜乃”という言葉に反応してしまう。
そうだ。菜乃のためなら女装くらい…
いやでも、『桜夜』の総長として女装というのはどうなんだろ……

「…楓は」
「俺は行きたくな……行けませんから」

前文で楓の本性が見えた。

「なんで行きたくないんだ?」
「「……」」

おぉい!
俺がわざと心の中だけで突っ込んで終わらせたのに、わざわざ掘り返すな迅っ!
そんな純真無垢な瞳で!
お前も天然か?
「俺は行きたくないんじゃなくて、行けないんだよ」
「え〜なんで〜」
「…ほら、それより迅。俺のことより煌輝を説得したほうがいいよ」
「…!」

こいつ、話逸らしやがったな。

「楓…行くよな?」
「俺は行けな」
「行くよな?」
「……はい………」

結局のところ楓は優しいから、強く言われると断れない。
俺はそこを利用する。最低だけど。

「だが、女装か…」
「菜乃のためだよ」
「…やる」

菜乃のためなら、鬼でも悪魔でもなんでもなってやるとは思っていたけど。
正直、女装は予想外だった。

と、いうことで。
俺らは菜乃の高校に女装していくことになった。

煌輝said end
「なあ、西園寺頼むよー」
「…嫌ですよ」
「な〜西園寺〜」
「なんで私がついていかなければいけないんですか。こんな…」
「怖くもないお化け屋敷に」

そう。今日は、一大イベントの文化祭です。
先生は、受付担当の私に、一緒に行ってくれと駄々をこねています。

私にとってたかがお化け屋敷なのですが、先生は怖くて仕方がないようですね。
ちなみに、私もついさっきまで中にいましたが、交代制で、出てきたのです。

「なあ、西園寺…」
「…先生、そろそろいい加減にしてくださ…」
「うるせぇぞ、桜井センセ」

駄々をこねる先生に切れる寸前、誰かが先生の襟首をつかんで静かにさせてくれた。

それに、この声は…

「迅くん、ありがと……?」

思わず、声が上ずってしまった。
だって、先生から視線をあげた先にいたのは。

「……あれ…迅くんと、楓くんと、煌輝くん……ですよね??」

美少女3人組だったからだ。
「おう!」
「「……」」

迅くんは相変わらず元気そうだけど、他の2人は顔に生気が宿ってない。
簡単に言って、顔が死んでる。

「あ、西園寺さ〜ん!!休憩入っていいよ〜!」
「はい!」

みんなが沈黙しているときに運良く、休憩に入った。

「あ、あの…休憩入ったので、ちょっと人気のないところへ行きませんか?」
「もちろん!」
「「……うん」」

相変わらず温度差のすごい3人を連れて、校舎裏へ。

「どうしたんですか?いきなり。女装だなんて…そういうの暴走族で流行ってるんですか?」
「いや、今日は菜乃の文化祭だろ?行きたいなーって総長が言うから、来ちゃったんだよな〜」
「それでなんで女装なんですか?」
「目立つから」
その格好でも十分目立ってますよ、とは言いません。
これ以上お二人の顔が死んでも困りますからね。
と、言いますか。

「3人ともよくお似合いですね〜。やっぱりイケメンは何着ても似合います」
「だろ?」
「はい。姉妹って感じがします」

一番下が迅くんで、2番目が楓くん。そして3番目は煌輝くん。

迅くんは、低身長で金髪の髪の長いかつらをかぶっていて、ちょっと生意気な妹って感じ。
楓くんは、少し茶色かかった髪を黒のかつらで隠していて、できるお姉さん感が溢れ出てる。
まあ、それでもやっぱり、煌輝くんは群を抜いて似合っています。

いつもの真っ黒な黒髪を、これまた真っ黒なかつらで隠していて、小顔ですらっとしていて、お人形さんみたいに可愛い。
これで歩いたらやはり…

「なあ、あの子可愛くね!?」
「だよなー!めっちゃ可愛い」

ですよねー。
この3人と歩いていたら、いやでも注目を浴びてしまいます。
一緒に居たくないですね。
ていうか私、この3人のオーラに霞んでません?

ちょっとでも離れて歩きたくて、そっと3人から距離を取ると。

「菜乃!離れないで!」
「…!」
「菜乃が離れたら、この格好した意味ないじゃん!?」
「で、でも、数センチくらいしか…」
「いいから!菜乃は俺のそばにいて!」

少し迷いながらも、煌輝くんの方に近ずくと。

「もう、離れないでよね」

ぎゅっと手を繋がれた。

「こ、こここ…っ!」
「何?鶏の真似してるの?可愛い」
「ここ!なんでよりによって、人の多いところで手を繋ぐんですか!」
「え?なんでって?そんなのPRにきまって…じゃなくて、菜乃と離れないようにするためだよ?」
「私は、離れたりしません!」
「たった今離れかけてたのにそれ言っても、説得力ないよ?」

か、返す言葉もありません…!

「でも…なんていうか、恥ずかしいです…」
「ドキドキしてるの?菜乃」
「だって、私…男の人と手とか繋いだことなくて…き、緊張がすごいです」

心臓が痛いくらいなのも、きっと緊張のせいです。

「あー…緊張のドキドキか。まあ、菜乃らしいっちゃ菜乃らしいけど」
「こ、煌輝くんは、緊張とかしてないんですか?」
「俺?してるよ?だって、総長が女装してんのバレたら、『桜夜』が恥かくじゃん?」
「……」

そっか…
忘れてましたが、煌輝くんは組の総長でしたね。
と言いますか、後ろがやけに静かですね?
そっと振り返ってみると、そこには2人の姿はなくて…
困惑していると。

「な、菜乃!走って!!」
「わっ!待ってください、煌輝くん!」

急に煌輝くんが私の腕を引っ張って駆け出した。
それと同時に、ドドドドという地響きの音がする。
振り返ってみるとそこには…

「ひ、ひやぁぁあああああ!!??」
「「た、た、助けてーーー!!」」

迅くんと楓くんの後ろから、ものすごい数の男子が押し寄せていた。

だから走れって言ったのですね!?煌輝くん!!
何ですか、この男子の軍団は!
あと、煌輝くん、手!!

「あ、あの、煌輝く…」
「菜乃、ごめん!ちょっと失礼!!」
「わっ?!」

急に煌輝くんが謝ってきたと思えば、体が宙に浮く感覚。
……私、煌輝くんにお姫様抱っこされてません?!

「お、下ろしてください!自分で走れます!!」
「ダメ!菜乃は女の子でしょ?俺はもうちょっとスピードあげたかったから、菜乃に無理させたくないと思ってっ…!!」