しかし彼のことだ、きっと何か考えがあるのだろうと、私は極力動揺を顔に出さないようにカルダ達の方をじっと睨みつけていた。
カルダはラグが何を言っているのか瞬間理解できなかったのだろう、大きく眉を寄せ確認するようにもう一度その言葉を繰り返した。
「銀のセイレーンて、あの伝説の……ですかい?」
「あぁ、そうだ。そのときに闇の民を一緒に見たという目撃情報があってな。それでストレッタからこうしてオレが派遣されてきたってわけだ」
こちらがヒヤヒヤするような事実と嘘を、ラグはスラスラと躊躇することなく口にしていく。
案の定カルダの顔から笑みが消える。
私が言うのもなんだが、いきなり言われて信じられる話ではないだろう。
だがカルダはどうにかもう一度ひきつりまくった愛想笑いを浮かべた。
「それならそれで、俺達に先に言ってくれたら良かったじゃないですかい。そしたらこんな――」
「混乱を避けるため、出来る限り内密に調査し、終わり次第すぐに戻るつもりだった。内容が内容なだけに、な。……まぁ、結果問題は無かったんだが、帰るに帰れなくなってな」
それまで事務的だったラグの声音がそこで変わる。
「つい先刻、村の農園から突然火の手が上がった。この嵐のお蔭で幸い村は無事だったようだが、農園の作物は全滅だった」
「そ、そうなんですよ! 俺達もこれは不味いってんで、今その話しをしていたところなんで」
額にびっしりと汗を浮かばせながらも、しらばっくれるカルダ。
ラグは続ける。
「あの農園作りには確かストレッタもかなりの資金援助をしていたはずだ。もし何者かが故意に火をつけたのであれば、ストレッタも黙ってはいない」
「……っ」
カルダの顔から完全に笑みが消える。
私もここの農園がストレッタと関係していたとは思わなかった。いや、これもラグの嘘なのだろうか……?
「お前があの村の担当か。何か心当たりは?」
「い、いや、俺は何も知りませんです」
「……なら、これは知っているか? オレ達術士の中には特殊な力を持った奴がいてな、万物の声が聞こえるんだ。……例えば、炎に焼かれていく草木の悲鳴、とかな」
ぞっとするような低い声音。
その力を持っているのは神導術士であるライゼちゃんで、ラグにその力はないはず。わかってはいるけれど、まるでラグにもあのときの悲鳴が聞こえていたかのようにその声には怒気が含まれていた。
と、そのときだ。
「!?」
急にこちらを振り返ったラグに腕を取られ、私はそのまま強引に引き寄せられた。