一気に不安になった私はラグの背中を見つめる。
だがラグは全く気にしていない様子で腰に手をやり、突然、カルダ達へ向けナイフを突きつけた。
瞬間そのまま切りかかるのではと焦る。だが違った。
「オレの名はラグ・エヴァンス。調査のためこの国へ来た」
抑揚の無い、しかしはっきりとした声。
それを聞いた途端、カルダの顔が驚愕に歪んだ。
「ストレッタの魔導術士!?」
カルダではない、もう一人の男がラグのナイフを見て完全に裏返った声を上げた。
カルダの態度もその瞬間から豹変する。先ほどまでの威勢はどこへやら、気持ち悪いくらいの愛想笑いを浮かべたのだ。
「こ、これはとんだ失礼を。まさかこんな辺鄙なとこにストレッタの術士様がいらっしゃるとは思いませんで……」
なぜラグがストレッタの術士であるとわかったのか、それはこの後すぐにわかった。
ラグがもう不要と判断したのか慣れた手つきでナイフを腰に収めた、そのときだ。
(あ!)
見覚えのあるものがナイフの柄の部分にしっかりとはめ込まれていた。
それは以前ルバートの街に入るとき、ラグが身分証をと兵士に見せたバッジのようなもの。
それを見た兵士達が今のカルダたちと同じように酷く驚いたことを思い出す。
前はその意味がわからなかったけれど、今なら少しわかる。
魔導術という特別で圧倒的な力を持って今このレヴールを支配しているという、“魔導術士養成機関ストレッタ”。
――おそらく、その人間だという“証”なのだろう。
「しかし、調査とは一体……? 俺たちは何も聞いてませんが」
カルダが顔を引きつらせながらも笑顔で訊いた。
私もそれは気になった。調査って……?
すると、ラグは感情の無い声でとんでもないことを口にした。
「お前達はまだ知らないだろうが、ランフォルセに“銀のセイレーン”が現れた」
「!?」
私は思わず声を上げそうになってしまった。
(そんなこと、言ってしまって大丈夫なの!?)