――カシャッ

「な……」

 シャッター音は仁瀬くんの携帯から聞こえた。
 左手に持ち、高くあげられている。

「なに、撮ってるの」

 思いきり胸を押して、離れる。

「花と僕が。ただならぬ関係って雰囲気の、写真」
「消して」
「サラって言ったっけ。花の友達。あの子、僕のこと好きなんだろ?」
 …………!?
「勘違いされちゃうね。こんなの見せたら」

 仁瀬くんの見せてきた画面には、わたし達がキスしてるように見える写真が映し出されていた。

「裏切ったと思われて。嫌われるね」
「やめて」
「そっか。君、あの子を失いたくないのか。こんなの拡散されたら。サラとも。省エネな暮らしとも、サヨナラかな」

 穏やかに微笑む仁瀬くんのこと、心底理解できない。

 できるだけラクな方にって。
 最低ラインの選択を選び続けてきた。

 高い目標を立てたことも。
 多くを望んだこともない。

 でも、今は――
「好きにすればいい」

 そんな写真くらいで滅びるなら。
 そこまでの、友情だったってこと。

 脅されて言いなりになるくらいなら。
 それ以外の選択を選んでやる。

「わたしは沙羅に後ろめたいことなんて、なにもない。話して信じてもらえないなら。……諦める」

 沙羅が友達って言ってくれたことを思い出し。
 胸がギュッと、苦しくなったとき。

 話し声と足音が聞こえてきたことに気づく。

「おいで」
「……っ」

 ひと気のない方へと。
 手を引いて、連れて行かれる。
 振りほどきたいのに。とても力強い。

「痛……!」
「手首、細いんだね」
「離してよ」
「簡単に折れそう」

 グッと力を込められる。

「イタい……!」
「大きな声を出すな」
「誰のせいだと――」
「花のせいだろ?」