――すみません

 あのとき声をかけてきたのは。
 わたしと話をするため?

 ”おもしろそうだった”のは。
 本じゃなくて……

「意味、わかんない」
「返さなければ。また君と話す機会があるかもしれないとも、考えた」
「頭、おかしいんじゃないの」
「そう? 計画通りになったけど」

 そんなバカげた行動に。
 なんの意味があるというの?

「学校のもの。なんだと思ってるの」

 誰かの想いが詰まった本。
 なんでそんなに簡単に捨てられるの?

「だから弁償するって言ったのに」

 お金の問題じゃないでしょ。

「ホントのこと先生に話してくる」
「省エネなのに?」
「……え」
「僕の前だと。感情の起伏、激しいね」
 …………!
「まあ。別にいいよ。君が誰かに話したとして。僕が、それは小糸井さんの勘違いで、本当になくしたんですって言えば。どっちが信じてもらえるだろう」

 ――相手は、特進クラスの秀才

「おかしなことを言ってるのは。誰になる?」

 新入生代表の挨拶をした、生徒。

「僕より君を信じてくれる友達、一人でもいる?」

 もっとも親しい沙羅は、この男のことが盲目的に好きだ。

 この学校に仁瀬くんよりわたしを信じる人なんて、きっと――いない。

「……最低」
「それでも君より僕は。ずっと価値のある人間だ」
「わたしには、価値がないかもしれないけど。それでも。あなたみたいに誰かに迷惑かけて生きてない」

 仁瀬くんから視線線を外す。

 脇をすり抜けて。
 一刻もはやく、この場から離れよう――
「やっぱりおもしろいね、花は」
 手首を、掴まれ。

 そのまま抱き寄せられたと気づいた数秒後。