「どうしてそんなに不機嫌なの」
「わかってて聞いてるよね」
「まーね」
「ついてこないで」
「そんなこと言われても下足場は同じだし」
「だったら先にどうぞ」

 足を止めて仁瀬くんが離れるのを待つ。
 が、

「なんで止まるの?」

 仁瀬くんまでピタリと足を止めた。
 ムカつくくらい長い脚だな。

「一緒に歩きたくない」
「照れてるのか」
「嫌がってるんだよ」
「目立つから恥ずかしい?」
「色んな意味で恥ずかしい」
「どんな意味?」
「だってあなた、常識ないし」
「常識か。マナーや言葉遣いなら君より把握してると思うけど」

 やればできるって言いたいんだろうけど。
 やらなきゃ意味ないからな?

 結局同じタイミングで靴を履き替えるわけだが――
「珍しいね」
「……っ!?」

 いつの間にそんなに近づいてきたのってくらい。
 わたしの顔のすぐ横に仁瀬くんの顔があって。

「ビックリした!」
「コイトイハナ」

 ああ、靴箱の名前読み上げられたのか。
 たしかにわたしの名字は珍しいかもしれないけど。

「それを言うなら。仁瀬くんもたいがい珍しいよね」
「花」

 呼び捨てかよ。
 って、近すぎるから。離れろ――……

「捨てたんだ」
 …………え?

「なんの、話?」
「本」
「…………」
「借りた日に。捨てた」

 ――――は?

「……笑えないよ、その冗談」
「冗談じゃなくて。ホント」
「…………なんで」
「もう用がなくなって」

 ――面白そうだったから

「ただ君と話をしてみたくて、借りた」