「はあ〜。噂通りだった」

 教室に戻ってからも目をとろんとさせている、沙羅。

「噂?」
「甘いマスクなのにドS」
「ただのワガママ男じゃん」

 沙羅の好きなひとを悪くいうつもりはないが。
 アレのなにがモテるんだ?

「仁瀬くんだから許せるんだよ」

 許せるものか。

「いいなー、花。仁瀬くんとたくさん話せて」
「話したくない」
「うちなんてさ。意識しすぎて、顔もろくに見られなかったよ〜」
「見たくない」

 そんなことより司書さんに話さなきゃ。
 本がなくなったこと。
 だるいけど、ひとこと報告するだけなら時間もかからない。

 図書室に寄ってから帰るか。

 にしても、なんなの。
 仁瀬巧の私物や借りた本を盗む物好きの気が知れない。

「一万円。もらっておけばよかったのに」

 あの男からは。
 一万円だろうが百万円だろうが、受け取りたくない。

 腹黒王子め。
 たとえ学校中の人間があなたの前で跪こうが、わたしは絶対に屈服しない。