「巧くーん、きっとそれ多すぎるよ」

 たしか、仁瀬くんが借りた本は単行本でなく文庫本だった。
 だから千円しないくらいだ。
 高くても二千円あれば足りる。

 が、そういう問題ではないだろう?

「そう? じゃあお釣りは、手間賃ってことで。君がもらっておいて」

 金銭感覚おかしいでしょ。
 そしてお金でなんでも解決できると思っているらしい。

「弁償とかそういうことは、先生に判断をあおぐ。委員として動いてるから手間賃は受け取れない」
「なら、先生に伝えておいて。なくして申し訳ありませんでした、弁償させていただきますって」

 自分で伝えにいけと言っても無駄だな。

「……わかった」

 一万円札を返そうとして、ひょいとかわされる。

「なに」
「喉かわいた」
「はあ?」
「カフェオレが飲みたい」
「……だからなに」

 意味がわからない。

「巧くん。自販機ってたしか一万円札使えないよ」
「困ったな。僕、小銭持ってないや」

 待て待て。
 このお金で買ってこいと?

「なんでわたしが買いに行くの」
「別に頼んでない」

 いやいや。今の流れは。
 明らかに、わたしがパシらされる感じだったよ?

「他の子に頼んで」

 一万円札を、仁瀬くんの胸ポケットに突っ込む。

「あなたに尽くしたい子なら他にいるでしょ」
「たしかに」

「あたしたちが買ってきてあげる〜」

 女の子が二人、教室から出ていく。

 どうなってるのこのクラス。