「ステショとか。テストの答案とか〜」
「答案?」
「満点しかとらないから。勉強運アップのお守りになるんだよー」

 なるかそんなもん。
 つまり、本も盗まれたと。

「図書室の本は学校のものだよ?」
「仁瀬くんの熱狂的なファンからしたら。そういうこと、どうでもいいんだろうね」

 …………狂ってる。

「どうしてくれるの」

 仁瀬巧を、睨む。

「僕に言われても」
「そうだよー、巧くんは被害者なんだから!」

 黙れバカ女ども。被害者は学校だ。
 そしてこんなところまで来てるわたしも。

 期日を守って返していれば防げたかもしれないんだよ?

 ……しかしまあ。
 この男にこれ以上文句を言っても解決しない。

 なくしたにせよ盗難にあったにせよ、まずは先生に報告しなければ。
 面倒くさいことしてくれるなあ、ほんと。

「沙羅、行こ」
「えっ!?」
「本がないなら。ここにいても仕方ないから」
「んー……」

 もう少し仁瀬くんといたい、という目で見つめてくる。
 しかしわたしは、一秒でもはやく、このクラスから出ていきたい。

「弁償するよ。いくら?」
 …………は?
「これで足りる?」

 ズボンのポケットから財布を取り出した仁瀬くんが、わたしに掴ませたのは、一万円札だった。