「Ciao!(やあ!)Come stai?(元気?)」

ドアが開くと、茶色のふわふわした髪を後ろで束ねたかわいらしい顔立ちの男性が現れる。男性の着ている白いシャツは、絵の具があちこちに飛んでいて色鮮やかになっている。

「Buon giorno.(こんにちは)Sto bene,grazia(元気です)」

みどりがそう言って笑うと、ビシッとみどりのおでこに男性の指が飛んできた。と言っても、全然痛くはない。

「嘘はよくないね。君の今の顔は作り笑顔だよ。……また、無理してたんじゃない?」

男性はみどりの目線までかがみ、みどりの黒い目をじっと見つめる。みどりは顔の近さに慌てて後ろへ仰け反った。

「Aventi,entrate.(さあ入って)Faro' del succo(ジュース出すよ)」

男性はドアを開ける。みどりは頭を下げ、「Grazia Mille.(ありがとうございます)Permesso(お邪魔します)」と言って中に入る。

みどりは、この家の奥へと吸い寄せられるように進む。一番奥の部屋の扉を開けると、中には様々な色であふれていた。

部屋の中には、たくさんの絵の具やデッサンした絵が壁に並べられ、筆が机の上には並べられている。イーゼルには、描きかけの絵があった。