藍里の悪阻は良い時もあれば悪い時もあって、波が激しかった。

酷い時は一日中起き上がれずにずっと寝込んでいたし、調子の良い時はここぞとばかりに動き回って家の事をしていた。
と言っても、智大もずっと休みを取って家にいて家事をやっているから藍里がすることは殆どなく、すぐに用事が終わって後はボーッとするしかなかった。

今日は悪阻もなく元気な藍里がチラッと智大に視線を寄越せば、智大は難しそうな顔をしながら新聞を読んでいた。
話しかけようかどうしようか悩んで、手を伸ばそうとしては途中で止めてを繰り返していたら、クスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。

「何だ、相手してほしいのか?」

「あ……えっと……」

「違うならこのまま読むぞ?」

せっかく藍里の方に向いていた視線が再び新聞に落とされてしまい、藍里は慌てて智大の服を掴むと眉を下げてじっと見上げた。

「せ、せっかく一緒にいるんだから……だから、相手してほしい……」

恥ずかしさに頬を染めながら必死にそう言うと、智大は新聞を畳んでテーブルに置いて両手を広げて藍里を誘った。
堪らず腕の中に飛び込めば、智大はギュッと抱きしめて頭を撫でてくれる。

それだけで幸せな気持ちになった藍里は、満たされた気持ちで智大の背に手を回した。