「夜中でも食べれるように多めに切ったから、無理に食べずに残せよ」

「うん……」

「何泣いてんだよ」

「だって……今日は情けなくて、嬉しくて、寂しくて、嬉しくて、嬉しくて……」

「嬉しいことがたくさんあったんだな」

「うん……智君がたくさん優しかった……」

「そうか」

ダイニングテーブルではなくリビングのテーブルに置かれたたくさんの果物の一つを食べながら、藍里は智大の足の間に座り泣いていた。

今日だけで目まぐるしい感情の変化に振り回され、いつの間にかいっぱいいっぱいだったらしい藍里の心は智大の数々の優しさが引き金となって、ついに感情が溢れた。
止まることのない涙を智大が苦笑しながら拭ってくれるのを甘んじて受け、藍里はもう一口果物を頬張った。

「っ……こんなに大きな手なのに……何でこんなに小さく切れるの?」

「最初は難しかったが慣れたな」

「今朝のサンドイッチもたくさん具材入ってたし、すごく美味しかった……」

「良かったな」

「智君、大好き。たくさん大好き」

「残念だけど、俺の方がもっと藍里のこと好きだ」

「っ……ずっと、傍にいて、ほしいよ……」

悪阻への不安や一人で家にいることになる寂しさを抱え込んでいた藍里は、言うつもりもなかったことを無意識に言ってしまった。
取り戻せない言葉に藍里は食事を止めて両手で顔を覆うと、首を振りながら、違う……ごめんなさい……我儘……。と途切れ途切れになりながら謝った。