智大が運転する車の後部座席で、藍里は横になって丸くなっていた。
本当は助手席に座りたかったのだが、あまりにも顔色が悪い藍里を心配して智大が後ろに寝かせたのだ。

「食欲は?何か食べれそうな物あるか?」

「あんまりない……かな……。でも、智君のご飯はちゃんと作るから……」

「いらない」

きっぱりと即答で言われてしまい、それ以上何も言えなくなるとさらに体を丸めた。
近くのスーパーに入ったのか駐車場で車が停まる感覚がすると、運転席から振り返った智大の手が伸びてきて藍里の髪に触れたので思わずビクッと反応してしまった。

「……勘違いするなよ?藍里の飯がいらないんじゃなくて、そんな青い顔したまま無理して作らなくていいってことだからな?約束したこと、覚えてるだろ?」

以前結婚記念日に熱を出して、無理してご馳走を作った藍里。
そしてそれを心配し、無理をしたことに対して怒った智大。

初めての喧嘩に、これからはお互い相手を心配させないように無理をしないと約束したのがつい最近のことのように思い出され、藍里は小さく頷くと少しだけ顔を上げて智大を見た。

「覚えてる……ごめんね……無理しようとしてた……。今日はしんどくて動けなさそうだからご飯、お願いしてもいい?」

素直にそう言葉にすると、智大は微笑んだ。