「へえ、たった数週間でそんなに成長するのね」

「そうなんです。私も感動しちゃって、なんだか泣きそうになりました」

病院の検診の後に仕事にやってきた藍里は、先輩と話ながらアメリカンショートヘアのノアのシャンプーをしていた。

妊娠が発覚すると店長が藍里に配慮して小型犬や大人しい猫のトリミング担当にしてくれたり、悪阻が辛い時は休んでも構わないと言ってくれていた。
藍里はそれを有りがたく思いながら、ギリギリまで働けたら。とも思っていたのだけれど、最近は動物の匂いがキツく感じると同時に吐き気がして、その場にいることすら辛い時があった。

先輩や店長と相談した結果、藍里の体調を考慮して今日を最後に暫くの間休職することになっていた。

「……暫くここに来れなくなるのが寂しいです」

小声で呟けば、先輩は苦笑して藍里の背中を一度だけポンッと叩いた。

「別に退職する訳じゃないんだから。……中にはそのまま辞める人もいるけど」

「や、辞めませんっ!私、トリミングの仕事、天職だと思ってるんですからっ」

必死になってそう言うと先輩は朗らかに笑って、知ってる。と頷いた。
そして、ちゃんと待ってるから。とも言ってくれて藍里はまた泣きたくなってしまった。

休職しても一人で家にいないといけないのだと思うと、藍里はとても寂しくて仕方なかった。