藍里が智大に甘えた日から数週間。
何だか智大が普段以上に優しくなった気がする藍里は、用意された朝食を一人で黙々と食べながら溜め息をついた。

すでに智大は出勤して家におらず、ダイニングテーブルの上には休みの藍里のために用意したのであろう、一口サイズのサンドイッチが以前のおにぎりのように何個もお皿に乗っていた。

「……起こしてくれてもよかったのに……」

最近は眠くて眠くて仕方がなく、智大が家を出る時間に起きれない藍里は当然弁当も作れてない。
せめて智大が日課の早朝トレーニングから帰ってきたら起こしてほしいと訴えたが、智大は決して起こしてくれなかった。

“自分のことは自分で出来る。眠れる時に寝とけ”と言われたのだけれど、それでも藍里は奥さんとして朝食も作りたかったし弁当も作って食べてほしかった。

意見がすれ違わないように話し合っても智大は決して譲らず、それならばと目覚ましをかけたりするのだけれど、それでも起きられない藍里はもう一度溜め息をついた。

「ちゃんと奥さんしたいし、何より……少しでいいから智君と会って話したいのに……」

特殊な仕事をしている智大はただでさえ定時に帰ってくることが殆どないのに、ここ最近は大幅に残業して帰ってくることが多かった。
頑張って起きて待っていようと思ってもいつの間にか寝てしまい、次に起きた時にはもう智大が出勤していないことも多かった。

「寂しい……」

ポツリと呟けばじわっと瞳に涙が滲んできた。
慌てて手で涙を拭ったが止められずにその後の食事はしょっぱくなってしまった。