「里……藍里……」

「ん……?」

名前を呼びながら大きな手が藍里の体を揺すっているのに気付き、藍里はゆっくりと目を開けた。
視線の先には智大がいて、藍里は数回瞬きをすると目を見開いて勢いよく起き上がった。

「お……おかえりなさいっ!早かった……ね?」

「早いも何も、とっくに昼過ぎだぞ」

「え……っ!?」

慌てて時間を確認すると十四時をとっくに過ぎていて、寝過ぎてしまったことに藍里は唖然としてしまった。

「嘘……今日何もやってない……!」

掃除も洗濯も買い出しもご飯の準備も、普段なら午前中にやっていたことを何一つやっていなくて藍里は焦りだした。

「と、とにかく洗濯……きゃっ!」

寝起きですぐに動こうとしたからか、思っていたよりも腕に力が入らずに藍里はベッドから落ちそうになってしまった。
強く目を瞑るが落ちる感覚などは一切なく、覚悟していた冷たい床の変わりに温もりが藍里を包み込んだ。

「危ない。焦るな」

「っ……ご、めんなさい……。あの、ありが……と……」

呆れたような声が頭上から聞こえてくる。
けれど、藍里は待ち望んでいた温もりに包まれて胸が一杯になり、それどころではなくなってしまった。

恐る恐る智大の服を掴み、そっと擦り寄ってみる。
智大は一瞬息を飲んだようだったけれど、何も言わなかった。