「えっと……送ってくださって、ありがとうございました」

そう言ってペコリと頭を下げると吉嶺と入江は笑顔で手を振り、ブレイブはワンッ!と一度鳴いて去っていった。
藍里は家に入ると、さっきまでずっと微かに感じていた緊張を和らげるために深く深呼吸した。

吉嶺には大分慣れたし、入江も人懐っこい雰囲気で恐怖はあまり感じなくなってきた。
けれど男性が二人もいる状態で挟まれるようにして歩くとどうにも緊張してしまうらしく、会話もあまり覚えられなかったし手も小さく震えていた。

確か入江の後輩が智大のことをとても慕っていると話していた気がすると思いながら、藍里は靴を脱いで玄関を上がる。

「っ……」

微妙に空腹感を感じたと同時に急に気持ち悪くなり、藍里は咄嗟に口を手で覆った。

昨日病院で言われた食べ悪阻、空腹を感じる前に小まめに何か食べてください。と言われたことを思いだし、藍里は気持ち悪さに耐えながらキッチンへ向かおうすると、その手前のキッチンテーブルに、小さなおにぎりがたくさん並んだお皿にラップをかけられて置いてあるのに気付いて足を止めた。

「……智君?」

見覚えのないそれは、きっと藍里より仕事に出るのが遅かった智大が、あの大きな手でわざわざ小さな藍里サイズのおにぎりを作ってくれたのだろうと思い至った。

智大の優しさに胸が熱くなると、藍里は行儀が悪いのを知りながらも立ちながら一つ口に入れた。
塩加減も藍里好みでとても美味しい。
藍里は幸せな気持ちになりながらもう一つだけ、と二つ目を手に取るのだった。