仕事が終わり家までの道を歩いていると、いつも通る公園の前に差し掛かった時に大きな何かがいきなり飛び出し、藍里は驚いて身を引いた。

「きゃ……っ!?」

体当たりされ思いきり地面に尻餅をつくと、その大きな何かは藍里の足の上に乗り、肩には前足を置いて顔中を舐め回してきた。

「ブ、ブレイブ君……っ!?」

見覚えのある大型犬に首輪。
戸惑いながら藍里が名前を呼ぶとフサフサな尻尾をブンブンと振り回して喜びを表現し、ワンッ!と返事をするように吠えるとさらに体重をかけてきた。

「ちょ……ちょっと待って……!?」

小柄な藍里に、大型犬のブレイブの体重は重すぎる。
両手を後ろについて体を支えていたが、その手が重みでプルプルと震えてきてこれ以上は無理そうだった。
手の力がなくなり後ろに倒されそうになった瞬間、大きな手に背中を支えられ藍里は小さな悲鳴を上げると共にビクッと反応した。

「先輩の奥さん、触ってすみませんっ!少しだけですので我慢してください!吉嶺!早くブレイブ退けろっ!!」

「分かってるって!!ブレイブ!早く藍里さんから下りろってっ!!」

いつの間にか駆け寄ってきていたらしい飼い主の吉嶺がリードを引っ張って、ブレイブを藍里から引き離す。
支えられていた背中をゆっくり押され、倒れそうになっていた体が起こされると、すぐに背中から手を離された。

声から察してはいたが恐る恐る振り返ると、そこには男性恐怖症と知っていながら触れてしまったことを申し訳なく思っているらしい入江が、苦笑しながらしゃがんでいた。