しばらくそうしていたとき、膝になにかがそっと触れた。驚いて顔を上げると、ピンクのかわいらしいコートを着た一歳半くらいの女の子が、クリクリした目で詩穂を見ながら、膝につかまっていた。

「あ、こら! ミウ、ダメでしょ!」

 ダウンコートを着た女性が駆け寄ってくる。

「すみません、うちの子が……」

 そこまで言って、女性は目を丸くした。

「ええっ、もしかして詩穂?」

 詩穂も同じように目を見開く。

「美沙(みさ)……」

 その女性は、大学時代、詩穂の起業を手伝って一緒に会社を興してくれた鈴村(すずむら)美沙だった。

「どうしたの、こんなところで……」

 美沙が心配そうな表情になり、詩穂は慌てて手の甲で涙を拭った。

「美沙こそ、こんなところでどうしたの? あ、そうか、お子さんと遊んでたんだね。っていうか、お子さんが生まれてたなんて知らなかった。結婚してたんだね。おめでとう! お祝いしなくてごめんね」

 詩穂は笑顔を作って早口で言った。美沙は詩穂の隣に座り、ミウと呼んだ女の子を抱き上げて膝に乗せた。

「三年前……詩穂に『飲みに行こう』って連絡したの、覚えてる?」
「うん」
「あのとき、私、就職した会社で知り合った男性と結婚することを……詩穂に報告しようと思ってたんだ。詩穂にはきちんと伝えて……お祝いしてほしかったの」