『彼、私のことを好きだって言ってくれたんです。私なら蓮斗さんを幸せにできます。これからは私と彼とで、ソムニウムを育てていきます。新生ソムニウムにあなたは必要ありません』

 ジェニファーの声が頭の中でこだまする。

 やっぱりなにも持たない自分は、蓮斗にふさわしくないのだ。弘哉には頭取の娘、蓮斗には副社長のジェニファー……。

 詩穂の居場所など、どこにもない。

 泣きながらエントランスを出たものの、行く当てはなかった。荷物を――せめてスマホを――取りに戻りたいが、部屋の前にはジェニファーがいる。

 詩穂は考えもなくトボトボと歩き出した。そうして彷徨っているうちに、まったく見覚えのない場所に着いた。住宅街のひらけた場所で、パンジーが植わった花壇に囲まれている。どうやら広い公園のようだ。ブランコや滑り台などいくつか遊具があって親子連れの姿が見られ、楽しそうな笑い声が響く。

 どこか別世界のように感じながら、詩穂は木陰のベンチに腰を下ろした。膝に両肘をついて顔を覆い、静かに涙を流す。