ジェニファーの言葉に頭を殴られたようなショックを受けた。クラクラしてまともに思考が働かない。

「小牧さん、中で彼が帰ってくるのを待ちますから、鍵を開けてください」

 ジェニファーに言われて、詩穂はぼんやりと彼女を見た。

「さあ、早く」

 ジェニファーが詩穂の手から鍵を取ろうとするかのように、右手を伸ばした。詩穂はとっさに一歩後ずさる。

「小牧さん?」

 ジェニファーが一歩足を踏み出し、詩穂はパッと身を翻した。そうして全速力で廊下を走る。

「あ、ちょっと!」

 ジェニファーの声が追いかけてきたが、無視してエレベーターの開ボタンを押した。幸い二〇階に停まったままだったので、乗り込んですぐに閉ボタンを押した。続いて一階ボタンを押し、エレベーターががくんと動き出して、詩穂は背中を壁に預ける。

 詩穂はジェニファーの代用品。

 彼女の言葉が胸に突き刺さって痛い。

 蓮斗は『大学時代、詩穂のことが好きだった』と言ってくれたが、それは大学時代の話だ。そのあと、彼はジェニファーと恋に落ち、成長した彼女がアメリカから帰ってくるのを待っていたのだ。