キリンくんの背が薬品棚に当たり、これ以上、彼女から逃れることが難しくなった。
苦い表情を顔全体に貼りつけて、両手を伸ばし完全防備をするが、その間にも、少しずつ開かれた隙間を埋められていく。
わたしは、いてもたってもいられず、キリンくんの前に踊りでた。
「あのっ…!」
綿貫さんの、冷たい視線が突き刺さる。それでも、きっとこの場を退いてはいけない。わたしだって、キリンくんに助けてもらってばっかりじゃ、分が悪い。
「そもそもの原因はわたしのせいなので、…わたしが手当てします」
綿貫さんの目に、不快な色が映る。
「威勢がいいのは結構だけれど、彼の手を煩わせないで、きちんと手当てができるかしら」
「…湿布を貼るぐらい、わたしにも」
「自分の身なりもしゃんとできないくせに、よく言うわ」
自分の制服を目に入れて、唇を噛んだ。アイロンがけされていないシワが寄った制服、きつく結ばれた長さのバラバラなリボン、窓ガラスに映った荒れ模様の髪の毛先、全てが彼女に完敗だった。
「ほら、図星でしょう?観念して、わたしに黄林くんを渡しなさい」
スカートの裾をぎゅっと握りしめて、繰りだされる正論になにも言えなくなっていれば、わたしの肩を押す、彼の怒った顔が見えた。
「誰に手当てをされたいかなんて、僕が決めることで、綿貫さんに決めてもらうことじゃないです」
そうして、わたしの手を引いたキリンくんは、丸椅子に静かに座らせると、冷蔵庫から湿布を取りだす。
「僕は、狐井さんに手当てをしてもらいたいって思ってます。綿貫さんの気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい」
負けを確信した彼女は、わたしの顔を横目で睨んだあと、大きな足音を立てて、この場を去っていく。